試合レポート

浦和学院vs春日部共栄

2017.07.25

埼玉を引っ張ってきた両雄、15年ぶりの対決

 佳境を迎えた埼玉大会、準決勝第一試合は浦和学院春日部共栄、1990年代から幾多の名勝負を演じてきた埼玉を代表する私学両雄が激突した。この両チームの名勝負として語り継がれているのは2000年の決勝、浦和学院が坂元弥太郎、春日部共栄が中里篤史と、その後プロに進んだ両エースを擁しぶつかった試合、両者互角の展開で試合は進む。結果は延長10回表二死満塁のピンチを凌いだ浦和学院がその裏2対1サヨナラで勝利し甲子園の切符を掴んだことは記憶に新しい。

 他にも2013年春の県ベスト8、センバツ全国制覇した浦和学院に対し、春日部共栄・金子の好投もあり延長12回までもつれ最後サヨナラで浦和学院が勝利した試合などあるが、夏の対決というとやはり2000年の対決の印象が強い。だが、意外にもこの両者夏の対戦は15年ぶりである。試合はこの両者の意地がぶつかり合い、やはりというか終盤までもつれる展開となった。

 先発は浦和学院がエースナンバーの清水洋柄(3年)、一方の春日部共栄は左打者の多い浦和学院打線に対し用意していた2年生左腕の大木喬也(2年)が先発し試合が始まる。

 浦和学院・清水は前回5回戦の星野戦での登板でチームが苦戦する要因を作ってしまう不甲斐ない内容であったが、今回はその持ち味を発揮した。初回こそ先頭の川畑光平(3年)にライト前ヒットを浴びるが、続く矢田悠輔(3年)の送りバントを二塁封殺すると、3番・森圭佑(3年)をショートゴロ併殺に打ち取り流れに乗った。直球は130km前半だが、2回以降は変化球を制球良くコーナーに投げ分け、結局春日部共栄打線に対し5回を2安打5奪三振無失点に抑える好投を見せる。

 一方の春日部共栄・大木は左サイドの変則的なファームからインステップで繰り出す直球は120km台だがキレがあり、スライダーの曲がりも大きい。いわゆる背中からボールが来る、左打者が一番苦手とするタイプだが、左打者7人を並べる強打の浦和学院も例外ではなく案の定この試合苦しめられることとなる。

 それでも、先制したのは浦和学院だ。一死から5番・山本晃大(3年)が四球で出塁すると、すぐさま二盗を狙う。これはキャッチャー又吉一瑳(3年)に刺され二死となるが、続く秋山拓海(3年)がレフトスタンドへ先制ソロ本塁打を叩き込む。こういうタイプの投手は右打者が突破口を切り開くしかない。その典型的な形で浦和学院が1点を先制する。


 浦和学院はさらに4回裏、もう一人の右打者、この回先頭の杉山翔(3年)がピッチャーへ強烈なライナー性の打球を放つ。打球は大木の左ひざを直撃し大木は衝撃で倒れてしまう。これで春日部共栄の勝ち目も薄れたかと思われたが、大木は治療した結果、志願しマウンドに戻ってくる。この大木の奮闘に沸く会場。ここから会場の空気が徐々に春日部共栄へと傾くこととなる。

 だが、追加点を奪ったのは浦和学院であった。この回先頭の秋山はファーストゴロを放つが、これをファースト13602(3年)がトンネルしボールは外野へと転がる。秋山はその間に二塁へ到達し無死二塁とする。続く本田渉(3年)がきっちりと送り一死三塁とすると、浦和学院ベンチは好投の清水を代え、代打に右打者の燈中直樹(3年)を送る。燈中は死球を選び一死一、三塁とすると、ここで9番・森川怜(3年)がセーフティースクイズを決めこの回ノーヒットで1点を追加する。

 そして、6回からは前日7回1安打ピッチングの好投を見せた2年生長身右腕・渡邉勇太朗(2年)が満を持して登板する。さらに後ろにはエース佐野涼弥(2年)もいる。清水を攻略できなかった春日部共栄はここまでかと思われた。

 だが、7回表春日部共栄が猛反撃を見せる。

 この回先頭の森がセンター前ヒットを放ち出塁すると、続く山本もセンター前ヒットでつなぎ無死一、二塁とする。この場面元々スライダーの良い渡邉に対し、浦和学院バッテリーが山本に対し直球を3球続けるなど、ややムキになっていた印象を受ける。ここで春日部共栄ベンチは5番・谷島拓朗(3年)に当然犠打のサインを出すが、谷島が送れず追い込まれてしまう。ここで本多監督は開き直ったか、強攻を指示すると、谷島は期待に応えセンターへタイムリーを放ち1点を返し渡邉をマウンドから引きずり降ろす。

 さらに無死一、二塁という所でマウンドに上がったエース佐野だが、前日同様投球練習でワンバウンドを連発する。ここまで続くということは、佐野が万全ではないと見たほうがいいであろう。案の定、6番・又吉の2球目にキャッチャーがファンブルし無死一、三塁とすると、又吉から三振を奪うが、続く金子亮太(3年)への3ボールからの4球目がワイルドピッチとなり2対2の同点としてしまう。その後のピンチは連続三振で切り抜けるなど、結局この回3三振を奪うが、ワイルドピッチを2つ出し追いつかれてしまった。

 こうなると、流れは春日部共栄に傾く。8回表、先頭の川畑がライト前ヒットを放つと、続く矢田がきっちりと送り一死二塁とする。二死後4番・山本が左中間へ大飛球を放ち勝ち越しかと思われたが、センター山本はこの飛球をダイビングキャッチでもぎ取り勝ち越しを許さない。


 そして2対2で迎えた9回裏、試合はドラマティックな結末を迎える。これまで大木の前に3安打に抑えられていた浦和学院は、この回先頭の蛭間拓哉(2年)がライト前ヒットを放ち出塁すると、続く山本がきっちりと送り一死二塁とする。ここでこの日大木にタイミングの合っている秋山を迎えるという所で、春日部共栄ベンチが動く。秋山を歩かせるという選択もある中、好投の大木に代えエース右サイドの高橋大地(3年)をマウンドへ送る。

 高橋は期待に応え秋山から三振を奪うが、続く本田にセカンド右へライナー性の鋭い当たりを浴びる。セカンド川畑は懸命に飛びつくが体で止めるのが精いっぱい。その間に二走・蛭間が一気に本塁を狙う。川畑はすぐに体勢を立て直し本塁へ送球するが一歩及ばず、主将・川畑はその場で泣き崩れる。浦和学院がサヨナラで春日部共栄を振り切り4年ぶりの決勝へ駒を進めた。

 まず、春日部共栄だが、試合は総じて春日部共栄ペースのゲームであった。それだけにとにかく千歳一隅のチャンスを逃した格好だ。大木の好投もありヒット数では浦和学院を上回っていた。悔やむべくは序盤二度のバントのミスもあり、先発・清水を捉えられなかったことか。だが、新チームへ大木の目途が立ったことは大きい。

 今年のチームは昨秋から投手陣に苦しんだ。昨秋から山本がエースで4番であったが、ピリッとせず、肘を痛めてしまう。今春横一線となった中、昨秋に投手転向した右サイド髙橋が夏のエースナンバーを掴んだ。だが、新チームは大木に実戦経験豊富な右腕・内藤竜也(2年)、そして未だベールを脱がない大型左腕・渡部太陽(2年)にも目途が立ってくるといよいよ豊富な投手陣が出来上がる。ひとまず秋以降は投手陣で苦しむことはなくなりそうだ。むしろ不安は野手陣か。塩野など好素材はいるが、経験面では未知数だ。これからといった所であろう。

 一方の浦和学院だが、この日は最後まで大木を捉えるまでには至らず、盗塁は二度失敗する。期待の2年生コンビ渡邉、佐野もピリッとせず終盤はやや防戦に回る本当に苦しいゲームであった。だが、そんな中でも守備はノーエラーと最後まで乱れなかったのは大きい。だが、決勝は花咲徳栄が相手であるだけに打線の爆発が必須だ。ここはやや当たりが止まっている3番・家盛、4番・蛭間に期待がかかる。

 そして何より、現状ややフォームのバランスを崩している佐野が、決勝どれだけの好投を見せることができるか。これまで他の投手の頑張りもあり負担は最小限で済んでいるだけに、最後は彼がどれだけ投げ切ることができるか。そこが、4年ぶりの甲子園への鍵となりそうだ。

(文=南 英博

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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