試合レポート

前橋育英vs慶應義塾

2016.10.25

逆転勝ちを呼び込んだ丸山和郁の快投

前橋育英vs慶應義塾 | 高校野球ドットコム

下山悠介(慶応義塾)

 やはりハイレベルな接戦となった。

 前橋育英vs慶應義塾の一戦。まず試合の主導権を握ったのは慶應義塾だった。4回表、四球、犠打失策、四球で無死満塁のチャンスを迎え、1番下山悠介の適時打で1点を先制すると、2番宮尾将の遊撃内野安打で2点目、さらに一死満塁となって、4番正木智也の押し出し四球でこれで3点を入れる。5番森野壮眞がスクイズを試みたが、投手・吉澤悠の軽快な打球処理により併殺。3点どまりとなる。ここで突き放しができなかったことが後々響くことになる。

 県大会通じて安定したピッチングを見せていた慶應義塾のエース・森田晃介にとっては大きな3点だと思った方もいるに違いない。実際に森田の投球は安定感があった。右スリークォーターから投げ込む130キロ後半の速球、スライダー、カーブ、チェンジアップが決まり、5回まで被安打2。このままいけば完封ペースと思われたが、少しずつ変化球の精度が悪くなっていたのを前橋育英打線が見逃さなかった。

 前橋育英打線が反撃できたのは4回表、スクイズ併殺で3点にとどめたことだろう。そして2番手の丸山和郁の投球が非常に大きかった。前回は130キロ後半止まりだった丸山。だがこの日は常時130キロ後半~140キロ前半(最速143キロ)を何度も計測。ワインドアップからゆったりと始動、右足を高々を上げてから、テークバックは内回りの旋回で、しっかりと胸を張ってトップを作る。そしてリリースからフィニッシュまでの動作に無駄がなく、強い腕の振りができる。ただ140キロ投げるのではなく、とても勢いある140キロ前半のストレートを投げることができる。ここまで快打を連発してきた慶應義塾だが丸山の投球の前に沈黙した。

 170センチ69キロと小柄な体型をした左腕だが、今年の世代では全国レベルの左腕と推していい投手だろう。変化球はスライダー、そしてたまに投げる100キロ台のスローボールだが、ほぼ直球主体の投球で慶應義塾打線を圧倒した。このまま球速を伸ばし、さらに変化球の精度も上がってきたら、より注目を浴びる存在になっていくかもしれない。
 


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丸山和郁(前橋育英)

  6回裏、前橋育英は反撃を開始。一死から丸山が安打を放つと、その後、暴投で二塁へ。2番飯塚剛己の四球で一死一、二塁のチャンスを作り、3番戸部魁人が右翼線を破る二塁打を放ち、2点を返す。さらに同点にしていきたいところだったが、森田が粘り強い投球を見せて、6回裏は1点差止まり。7回裏も二死三塁のチャンスを作ったが、無得点。だが少しずつ森田を追い詰めていた。

 丸山は快調な投球。7回表には無死一塁から犠打を試みた慶應義塾。丸山は素早くボールを処理して、体を反転させたジャンピングスローで二塁へ。これが併殺となり、慶應義塾のチャンスをつぶす。投、走攻守すべてに高い能力を持った丸山だが、ここで身体能力の高さを存分に見せつけて、慶應義塾を追い込んでいったのだ。そして8回裏、前橋育英は二死一塁から4番飯島大夢が左前安打を放つと、5番皆川 喬涼の適時打で同点に追いつく。この同点打で流れは前橋育英に。そして9回表、丸山が4番正木を三振に奪い、5回被安打2、6奪三振の快投を見せると、9回裏、相手の敵失から一死二塁のチャンスを作り、8番黒澤駿太のセーフティバントが暴投を誘い、サヨナラ。前橋育英が二季連続の関東大会ベスト4進出を決めた。

 前橋育英は2試合続けての逆転勝利。この試合は左腕・丸山の登板から試合の流れが変わった。個々の打者の対応力は高く、ここぞという場面で小技を仕掛けて相手をかく乱。じわりじわりと追い詰める粘り。まだ守備のミスが多く、チームとしての完成度はまだまだだが、全国でも上位を目指せるチームになっていくのではないだろうか。

 スピードとパワー、そして絶対的なエースがいる慶應義塾を破ったことはさらにチームを成長させるきっかけとなるだろう。
 その逆転勝ちを呼び込んだ丸山和郁。来年以降、高校野球ファンにとっては見逃せない存在になるかもしれない。

(文=河嶋宗一

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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