都立豊多摩vs都立府中工
終盤に大波乱の試合は、最後に豊多摩が笑う
歓喜のサヨナラとなった都立豊多摩
当初の予定が週末の雨でずれ込んだ東京都大会。8日の予定だった試合がこの日に持ち越されて、本大会初戦である。
展開としては、中盤までの流れからは、信じられないような形になった。まさか、こんな結末のこんなスコアの試合になるとは考えられない試合だったという印象である。
6回までに宮下君、松岡君の連続二塁打や鈴木勇君の安打などで3対0とリードしていた都立府中工。4回にも1番杉江君のタイムリーで加点してリードして主導権を握っていた。ところが7回に、下位の3連打とディレードスチールで1点差とされる。それでも、失策はあったものの、何とか踏ん張ってそのまま9回を迎えた。しかし、ここで思わぬことが起きる。
都立府中工の先頭の7番馬場君の打球は単純な内野ゴロかと思われたが、内野手が捕球態勢に入ったところでポーンと跳ねてイレギュラー安打となった。二塁盗塁もあって二死二塁となった後、万事休すかと思われた外野飛球が左翼手がグラブに当てながらの落球となり同点。延長にもつれ込んだ。
それでも都立府中工も気落ちすることなく、10回にすぐに反撃。先頭の3番宮下君の左前打に始まって、鈴木 勇二君が続き井出君の右前打や、佐々木君の中前打で2点を入れる。これで万全かと思われた。
ここで都立府中工の坂尾 武監督は、「安定感ではむしろ(先発した井出君よりも)上、という信頼の下に、井出君を外野に下げて日向(ひなた)君を送り込んだ。ところが、都立豊多摩は東浦君と田中 悠貴君が連打。さらに、内野ゴロの失策もあって満塁。代打伊藤君は三振に倒れたが、馬場君が狙いすましてタイムリー打を放ち同点。なおも一三塁となったところで、大沼君がカウント2ボール1ストライクからの4球目を投手横へ転がすスクイズを決めて、劇的なサヨナラとなった。
今春に甲子園出場実績もある都立城東から異動してきて指揮を執ることになった平岩了監督は、「都立城東の子たちと、ここの子たちに能力の差と言えばそんなにあるとは思いません。ただ、意識ということで言えば全然違います。もちろん、公式戦で緊張はしているのでしょうけれども、都立城東の子たちのようなガツガツした気持ちはないですね」と、苦笑する。それでも、そうした意識が却ってリラックスした要素を導き出して、この試合のような形になることもあるということであろう。
「野球の神様っていうのは本当にいるんですね。展開としては、完全に負け試合なんですけれども、こういうことがあるんですね」と、日体大で首都大学野球リーグの高いレベルでの野球を経験してきた平岩監督をしても、改めて野球の不思議さを体感したようでもあった。
逆に、この秋から前任の佐藤 賢司監督を引き継いで就任した都立府中工の坂尾 武監督は、「改めて、一つアウトを取ることの大変さと難しさを教えられました。野球の怖さも、勉強させていただきました」と、試合を振り返っていた。
(文・写真=手束 仁)
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