作新学院vs北海
今井達也、決勝でも試合を支配するピッチング!打線も抜け目のない攻撃で二度目の栄冠!
伏兵、北海が決勝まで勝ち上がった大きな要因に全力疾走があったと思う。私が俊足の目安にしている打者走者の「一塁到達4.3秒未満、二塁到達8.3秒未満、三塁到達12秒未満」をクリアしたのは、2回戦の松山聖陵戦が5人13回、準決勝の秀岳館戦が6人8回。これほどのタイムクリアの人数と回数は大会を通じて北海がダントツである。
この決勝戦はその走力が存分に発揮されなかった。「4.3秒未満~」のタイムクリアは4人4回。作新学院の3人4回より多いが、北海の全力疾走には走攻守が上の相手校を攻撃性で凌駕するという側面がある。そう考えると「4人4回」は物足りない。
北海のアウトの内訳は「ゴロアウト9、フライアウト8、三振9、走塁死1」とバランスがいい。それだけ作新学院の先発、今井 達也(3年)のペースで試合が行われたということ。
今井は試合ごとに主体となるボールを変えている印象がある。準々決勝の木更津総合戦がカットボール、準決勝の明徳義塾戦がフォークボール。そしてこの決勝戦はカットボールとシュート回転で小さく沈むツーシームが目についた。
ストレートは明徳義塾戦から引き続き高めに浮くことが多く万全ではなかったが、困ったときのカットボールというくらい曲がりとコントロールが安定し、9三振のうち4つの決め球がこの球種だった。そして、カットボールと曲がりが異なる逆方向の変化球、ツーシームが北海の右打者の踏む込みを許さず、左打者に対してはカットボールが猛威を振るった。
試合は2回裏に北海が先行した。5番川村 友斗(2年)がストレートの四球で歩いたあとバントで二進、二死後に9番鈴木 大和(2年)が初球をレフト前に運び川村を迎え入れるという理想的な展開。スタンドが湧いたのはそれだけ作新学院の強さがファンの間に知れ渡っていたからだろう。
北海の先発、北海大西健斗(3年)は鋭く沈むカットボールとノーマルな曲がりのスライダー、さらに130キロ台後半から140キロ台前半を計測するストレートを交えた緩急に特徴があり、3回までは毎回スライダーを勝負球に空振りの三振を奪っている。
この技巧色の強い大西に対して作新学院各打者がどう立ち向かったかと言うと、1~3回まではセンターから逆方向への打球が目立った。否、「目立った」なんてもんじゃない。3回までの⒓人の打球方向がすべてセンターから逆方向だった。
これが4回の得点に結びついた。先頭の藤野 佑介(3年)がセンターの頭を越えるフェンス直撃の二塁打で出塁したあと、相手一塁手のエラーで同点、8番鮎ヶ瀬一也(3年)のセンター前ヒットで逆転、9番今井のライト前ヒットで3点目を入れるという波状攻撃を見せ、1番山本 拳輝(3年)がこの試合初めてライトに引っ張って2点二塁打を放ち、5回には二、三塁の場面で今井が空振りの三振、このワンバウンドになった球をキャッチャーが一塁に送球している間に三塁走者が生還するという抜け目のなさで勝負を決定的にする。
北海は4回以降ヒットが散発的に出るが、連打が出たのは1回だけ。完璧ではなかったが今井のストレートは最後まで140キロ台後半を計測し、その力の前に北海が屈したという試合だった。今大会最も印象に残った選手は、もちろんこの今井達也である。
(文=小関 順二)
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