作新学院vs木更津総合
木更津総合打線を翻弄した今井のピッチング
作新学院が今井達也、木更津総合が早川隆久という屈指の好投手による投手戦に加え、両校の守りが素晴らしく、ノーエラーという試合。思い返せば2回戦の横浜対履正社、3回戦の木更津総合対広島新庄もノーエラーだった。好投手同士の戦いは僅少差になる可能性が高いので、野手の気持ちの中に「しっかり守らなければ」という思いが強く生まれるのだろう。
先取点を取ったのは作新学院。1回表、二死走者なしから3番入江大生(3年)がストレートを豪快にバックスクリーン左に放り込んで先制。3回にはやはり二死走者なしから1番山本拳輝(3年)が四球で歩き、2番山ノ井隆雅(3年)が高めに抜け気味のスライダーをフルスイングで捉え、ライトスタンドに放り込んだ。
いずれも二死走者なしからの失点というのは、普段の早川のピッチングを知るものにとっては信じられない。広島新庄戦では内野ゴロを13個量産するピッチングが話題になったが、この日は逆にフライアウトが13個あった。早川の低めへのコントロールに狂いがあったのか、作新学院打線に低めの変化球を引っ掛けない工夫があったのか。
変化球は広島新庄戦と比べても遜色はなかった。特に縦に割れる110キロ台のカーブはブレーキ、落差、角度とも文句はなく、7奪三振中6個はカーブで取っている。問題はストレートだ。140キロ台前半が最速というのはいつもと変わらないが、低めへのコントロールと打者近くでのキレが広島新庄戦にくらべると物足りなかった。ストレートがよくない分、変化球への依存度が上り、それが打者の見極めを容易にしたのだと思う。
対する今井はこの日もよかった。ストレートは相変わらず伸びと速さを備え、変化球はカットボールを主体にノーマルスライダーがあり、さらに効果抜群だったのが130キロ前後でスパッと落ちるフォークボール。
今井のフォークボールを語る上で、低めにホップするように伸びるストレートは切り離して考えられない。フォークボールとストレートは途中まで同じ軌道をたどり、ストレートは低めいっぱいに伸びて「ストライク」とジャッジされる。これが残像にあるのでベース近くでボールゾーンに落ちるフォークボールに打者のバットは止まらない。このフォークボールを初球から使うことがあるかと思えば、スライダーで右打者の内角をえぐることもある。いわゆる「フロントドア」と呼ばれる球で、この内角球のあと外に高速で逃げていくカットボールを投げられると打者はどうしても追いかけて行ってしまう。
110球以上投げて臨んだ最終回にはストレートが唸りをあげた。一死後、7番打者には2、3球目が150キロ、4球目が152キロを計測し、8番打者には初球が150キロ、そして最後の球が151キロで空振りの三振という迫力だった。ストレートは滅法速いが、変化球のキレや使いどころも熟知しているというのが今井の素晴らしいところ。春までは完成途上で、公式戦にほとんど出ていなかったというのが信じられない。
(文=小関 順二)
注目記事
・第98回全国高等学校野球選手権大会 特設ページ