いなべ総合vs山梨学院
強打の山梨学院を封じたいなべ総合の個性派キャッチャー・渡辺の強みとは?
朝7時すぎ、阪神電車のホームで待っていると、「[stadium]甲子園球場[/stadium]は内野、外野とも満員でご入場できません」のアナウンスが。球場に着くと切符売場は長蛇の列で、スタンドは外野がすでに人で埋まっていた。
大観衆の目当ては第4試合の横浜vs履正社だろうが、この第1試合にもユニークな選手がいた。2、30年前、来日したメジャーリーグ選抜のキャッチャーが座ったまま二塁に送球するというので話題になったが、いなべ総合のキャッチャー、渡邉 雄太(3年)も2回表の攻撃が始まる前のイニング間で座ったまま投げた。そのタイムはというと1.98秒。これに毒気を抜かれたのか、山梨学院の盗塁はゼロ。作戦の1つを消滅させた殊勲者と言っていいだろう。
試合は終盤の7回が終了した時点で2対2の同点。ともに技巧派左腕の赤木 聡介(いなべ総合2年)は7回を6安打、2失点、吉松 塁(山梨学院2年)は5回を3安打、2失点と上々のピッチングで、ともに最速は130キロ台中盤と平均的で、球威不足をスライダー、カーブで補うという内容。勝負を分けたのは終盤の継投策だった。
6回裏から登板した山梨学院の栗尾 勇摩(2年)は将来性が期待される大型右腕だが、投球のほとんどが外角に集まり、打者に踏み込むことを躊躇させることができなかった。下位打線相手の6、7回は三者凡退で事なきを得たが、試練が待っていたのは8回裏。
先頭の2番宮崎 悠斗(3年)がライト前ヒットで出塁すると2球目に二盗。このときの(二盗に費やした)タイムは3.35秒。高校生は速い選手でも3.4秒台が多いので、超高校級の俊足と言っていい。3番打者の内野ゴロで三進、4番藤井亮磨(3年)が2球目の133キロストレートを振り抜くと打球はライトの頭を越える二塁打となり待望の勝ち越し点が入る。
攻撃はこれで終わらない。個性派キャッチャーの5番渡邉がレフト前ヒットで続き、2死満塁の場面で8番藤田 涼雅(2年)がタイムリー、9番山内 智貴(3年)がレフトに二塁打放ち、塁上の3人を生還させ勝負はほぼ決まった。栗尾が来年捲土重来を期すなら、外角一辺倒のピッチングスタイルを見直し、内角球にもっと価値を見出すべきである。
最後にもうひとつ注文をつけたい。走者が二塁にいる場面でヒット(単打)を打ったケースがいなべ総合、山梨学院とも1回ずつあったが、走者は三塁で止まってしまった。
コリジョンルールの導入でキャッチャーは走路でブロックの体勢を作ることができなくなり、多くのチームの三塁ベースコーチャーは昨年までならストップをかけていた場面でも腕をぐるぐる回してホームへの突入を指示し、そのほとんどがセーフになっている。
2対2で迎えた7回表の山梨学院は、1番土田 佳武(3年)がセンター右を破る二塁打を放ち、勝ち越しのチャンスを迎えるが、2番宮下 塁(3年)のライト前ヒットで三塁止まり、続く3番知見寺 代司(3年)の浅いセンターフライでも生還しなかった。
2つの場面でホーム突入を指示しなかったのは土田の脚力では無理という判断だと思うが、コリジョンなら生還の可能性は十分あった。ここで貪欲に点を取りに行かなかったことが勝敗の隠れた分岐点だと私は思っている。
(文=小関順二)
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