北海vs松山聖陵
チェンジアップ効果で北海打線に立ち向かったアドゥワ誠
松山聖陵の長身(196センチ)ハーフ、アドゥワ誠(3年)対北海打線に興味が集まった試合は予想通り接戦になった。
長身ハーフというと速球派に思われがちだが、それほど速くはない。中盤の6回までは最速が142キロだから「そこそこ」というくらいの速さだ。長い足を持て余すような狭いステップ、さらに長い腕を持て余すようなグラブを持つ左手の活用できなさ(投げ終わったあと左手が遊ぶ)……等々、かなり未完成と言っていい。
それがピンチになるとストレートの速さが増す。7回裏、北海の6番川村 友斗(2年)が一死から二塁打を放ち出塁すると、それ以降の打者に対してストレートの最速が144キロまでアップしたのだ。たった2キロを言わないでほしい。142キロと144キロとではかなり大きな差がある。
北海の打者からすれば130キロ台後半から140キロ台前半をうろうろしていたピッチャーが途端に143、4キロのストレートを投げ始めたのだ。そのチェンジアップ効果はかなりのものである。この回を無得点に抑えて試合は1対1のまま終盤戦に突入する。
北海打線は機動力と強打を兼ね備えていた。得点源となるのはクリーンアップの3番佐藤 佑樹(3年)、4番大西健斗(3年)、5番下方忠嗣(3年)の3人で、残る6人は足を使って相手ディフェンス陣を攪乱するという役割分担がきちんとできていた。
私が俊足の目安にしている打者走者の「一塁到達4.3秒未満、二塁到達8.3秒未満、三塁到達12秒未満」をクリアしたのは5人13回で、これはもちろん今大会最多。
1回に満塁、2、3、4回に一、二塁、6回に満塁、7、9回に一、三塁と毎回のようにチャンスを作るが、そのつどアドゥワが防戦するという展開。アドゥワの武器はピッチングだけではない。向かってくる打球に対する反応が非常によかった。正直に言うと「ウドの大木」タイプだと思っていたので驚いた。
ピッチャーゴロを処理したのは7つ(バントは含まない)。脇を抜けるような強い打球もあったが、それにも機敏に反応し、落ち着いて一塁にスローイングしてアウトを積み上げた。5回には無死一塁のときのバントを二塁に送球してピンチの芽を未然に摘んでいる。しつこいようだが、そういう器用さがある選手だと思わなかったので私の評価は上がった。
アドゥワに対する北海打線の中でよかったのは3番の佐藤だ。3安打、1四球と大当たりし、2死一、二塁で回ってきた2回にはアドゥワの136キロストレートを軽く合してレフト前に軽打。二塁走者がホーム憤死して打点はつかなかったが、状況に応じた軽打と強打は断然目立った。
(文=小関順二)
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