試合レポート

富山第一vs中越

2016.08.11

能力は凡庸。それでも富山第一が今村豪を打てなかったワケ 

  0対0のまま進んだ試合は、9回裏、富山第一が4番狭間悠希の二塁打で出塁すると、5番河原大成(3年)のサヨナラ打で決まった試合だが、投手は改めて力だけでは抑えられない、一本調子だけでは勝負できないと教わった試合であった。

 中越今村豪。どんな投手なのかというと、球速は、125キロ~130キロ。115キロ前後のスライダー、100キロ前後のカーブで勝負する左投手。こう書くとどこにでもいるような投手と感じるだろう。しかしコーナー自在に決まり、さらに緩急を使い分けが上手いのだ。特にスライダーは鋭く曲がるというより、ゆっくりと曲がっていく軌道で、タイミングが取りにくい。力のないボールをフルスイングするのは難しい。富山第一の打者は合わせてというより、力強く振っていって打球を飛ばす打者が多い。そういうタイプの打者が多い富山第一にとって、今村のようなゆっくりとした軌道で投げる投手は打ち難い。多くの打者が腰砕けの形となっていた。

 その投げ分けができるのもフォームに秘密がある。ノーワインドアップから始動し、ゆったりと右足を上げた今村はインステップ気味に踏み出す。グラブを斜めに突き出して開きを抑え、トップを作ったとき、左腕を上手く隠すことができている。そこからリリースを行っていくが、打者寄りでリリースすることができていて、さらに直球と変化球で腕が緩むことはない。今村の球種のほとんどはスライダー。恐らくストレートと同じ腕の振りで投げられるのだろう。打者から全く見分けが付かないので狙い球が絞りにくい。

 ストレートも、125キロ前後とはいえ、スライダーに慣れてきたところにストレートを厳しいコースへ投げ込むので、手が出ていなかった。スピードはそれほどでもないが、これはなかなかの実戦派だ。最後、勝負を焦ってしまったのが残念。それまで投げ急がず、自分の間合いで勝負することができていた投手で、こういう間合いや制球力を大事にしつつ、肉体的な成長によって、球速・球威も伸びていけば、大学レベルでも活躍できる投手になるだろう。


 対する富山第一の投手も良かった。先発の中津原元輝は評判通りの好投手で、現時点で高卒プロという凄味はないが、大学で一気に化ける可能性を持った投手だ。セットポジションから始動し、左足をゆったりと上げて、右足でしっかりと立って、ステップ幅の狭い踏み出しで左足を着地させる。その後、テークバックの動きを見ると、内回りの旋回をしていきながら、右ひじをしっかりと上げてからリリースに入る。打者寄りでリリースをすることができている。

 球速は、130キロ~130キロ後半(最速138キロ)とやや抑え目だが、スライダー、カーブ、フォークを使い分け、コントロールもまとまっていた。トータルで見ると、想像以上に実戦派だった。もう少し体の使い方などを磨いていけば、140キロ後半も期待できる素材だろう。

 そして2番手として登板とした2年生右腕・森圭名。決勝戦では11奪三振の完封勝利と中津原以上に結果を残してきた。森圭の長所は、鋭く腕が振れること。テークバックを取ってトップに入ってからの胸の張りが良い。球速は130キロ後半~142キロを計測し、体の強さを感じさせる選手で、森の方が球速がもっと速くなりそうだ。来年には、145キロ前後を計測していてもおかしくない。コントロールはやや荒れ気味だが、勢いで抑えてしまうタイプ。このままいけば、北信越地区をリードにする投手だろう。この世代、野手が目立つ世代だが、投手のレベルも高くなってきた。174センチ79キロと投手としてあまり上背はないのだが、今後、プロ入りが狙える逸材だというのは間違いない。

 野手では富山第一の正捕手・狭間 悠希と二塁手の岩城 竣貴が目についた。初ヒットを放った狭間は、オープンスタンスで上手く呼び込んで、鋭いスイングを見せる好打の捕手。また強気のリードで、投手陣をしっかりと引っ張っていた。岩城はバットを寝かせ気味に構える左打者だが、まだ間合いをうまくつかみきれていないのが課題。スイング自体は鋭く、芯で捉えればスタンドインも期待できる鋭さはあった。また盗塁失敗が一度もない俊足も魅力で、この試合でもディレードスチール(記録は暴投)を決めた。そして動きが良く、切り返しが鋭い二塁守備も魅力で、次のステージでも間違いなく二遊間を担える逸材で、とにかく課題である打撃を克服するべく、打撃フォームや、タイミングの取り方を学んでほしい選手であった。
 

(文=河嶋宗一

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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