八戸学院光星vs市立尼崎
市立尼崎・平林が気迫の力投!八戸学院光星・田城も負けじとフルスイングで4安打!
33年ぶり出場の市立尼崎。その原動力となったエース・平林弘人は、135キロは計測していたが、コントロールも高めに浮いていて、スライダーの精度もそれほど高くなかった。その平林の姿を見ているので、まさか兵庫県内ではトップクラスの報徳学園打線を夏、1失点に抑えるとは想像できなかった。
その平林は春に比べて劇的にコントロールが良くなったが、コントロールだけではなく、春にはなかった大きな武器を身に付けた。それがツーシームだ。そのツーシームを身に付けたというのが、大会前とのこと。練習試合で投げていても強豪校の打者たちを抑えたことで、このツーシームを使うようになった。
それが長田、報徳学園、明石商を破る大きな武器となった。また八戸学院光星打線に対してもこのツーシームが良くきまっていた。
右スリークォーターから投げ込む直球は、常時135キロ~141キロを計測。力を入れた時は、140キロをどんどん投げ込んでいた。そして自慢のツーシーム。球速は、130キロ後半を計測するなど、球速はほとんどストレートと変わらない。それが打者の手元で急激に食い込んでいく。右打者、左打者ともに苦しみ、5回まで無失点。投球フォーム的には東明大貴(オリックス)を彷彿とさせるような小気味の良いフォームで、まだ体つきが発展途上で、大学・社会人でうまくビルドアップできれば、145キロ前後までスピードアップする予感を刺せた。
また打線も1回裏に4番藤井倭の適時打で1点を先制し、しっかりと守っていた。
しかし6回表だった。先頭の田城 飛翔に高めの135キロのストレートを捉えられ、バックスクリーン横に飛び込む同点本塁打を許す。八戸学院光星打線は内よりに入って来る直球を狙い撃ち、この回、7安打を集中させ、一気に4点を入れて逆転するのであった。ストレートに過信すぎたところがあっただろう。7回以降、スライダーの割合を増やし、立ち直りを見せていく平林。ずるずると引きずらない投球はさすがであった。
一方、八戸学院光星の櫻井一樹も、130キロ~135キロ(最速138キロ)のストレート、スライダー、カーブ、チェンジアップ系統の変化球を上手く織り交ぜて狙い球を絞らせないピッチング。上手く打たせて取っていたが、7回裏、市立尼崎は9番殿谷小次郎の適時二塁打、そして9回裏には、8番谷尻尚紀の適時二塁打、9番殿谷の犠飛で同点に追いつき、今大会初の延長戦に持ち込んだ。この同点劇にスタンドは大盛り上がり、いつしか市立尼崎を推す雰囲気となっていた。
しかし決勝打を打ったのは、田城 飛翔だった。二死満塁のチャンスで回ってきた田城はストレートを捉えて一塁強襲安打。5打数4安打2打点の活躍だった。田城の何が良いかといえば、ストレートを振り遅れせず、強く叩けること。オープンスタンスで構え、グリップを肩の位置に置いて構える姿には雰囲気があり、ゆったりとタイミングを測って、インステップ気味に踏み込んで、外角をしっかりと捌けること。10回表の決勝打は内角のストレートをキレイに打ち返すことができていた。この日はライトの外野守備でもファインプレー。さらに塁間4.15秒の俊足。走攻守の完成度が高く、今年の高校生外野手ではトップレベルの力量を持っている選手ではないだろうか。
市立尼崎は一歩及ばずであったが、平林の力投に乗せられるようにナインも泥臭いの守備を見せていた。この泥臭さというのは、チームとしてこだわっていること。確かにミスはあったが、これは次の課題としてとらえてほしい。また投の平林と同じく打として引っ張った藤井。オープンスタンスで構え、トップを深く取って、弧を描いたスイング軌道から放たれる打球の鋭さは八戸学院光星の打者に負けていなかった。次のステージでも強打者としても活躍が期待できる素材と感じさせた。
試合後、イチアマナインに大拍手が送られた。そこには、この試合の戦いだけではなく、苦しい兵庫大会を勝ち抜いた試合を含めて、「よくここまで頑張った!」と労っているように感じた。1回戦敗退で終わったが、人々の心を揺さぶるような熱いチームであったことは間違いない。
(文=河嶋宗一)
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