鳴門vs佐久長聖
我慢の投球を見せた鳴門の河野 ど真ん中の直球を呼び込んだ主砲・手束
第98回全国高等学校野球選手権の開幕戦(試合経過)を制したのは、鳴門だった。鳴門の3年生にとっては三度目の甲子園。先発のマウンドに立った河野竜生(3年)が力投を見せた。
初回から走者を許す展開となったが、粘り強いピッチングを試合を作る。タイプ的には島本浩也(阪神)を彷彿とさせる投手。河野は174センチ72キロに対し、島本は、176センチ68キロと体格的にも似ていて、コンパクトかつ力強い腕の振りをできるところが似ている。ノーワインドアップから始動し、右足をゆったりと上げてから、左足は真っ直ぐ立ち、その後、右足をゆっくりと下ろしながら、インステップ気味に踏み込む。そこから左腕を内回りの旋回していきながらトップを作り、鋭く腕を振っていくフォームから繰り出す直球は、常時135キロ~140キロを計測。そして2回表には、最速143キロを計測するなど、非常に力のあるピッチングを見せた。
そしてツーシーム、スライダー、カーブを投げ分け、最後は高めのストレートや、低めへのスライダーを投げて佐久長聖打線を抑える力投。この日はストレートが高めへ浮いて痛打されたり、そして変化球が決まらず、苦しいピッチングになることは多かった。まだまだ決め手が欠くところがあり、高校生左腕として非常に速い最速145キロを計測しながらも、何か勿体無さを感じるのは、どうも力押しで、無駄に球数をかさんでしまうところである。だが終盤以降、打ち気に逸る佐久長聖打線を手玉に取り、2点目を失った7回表からは、落ち着いたピッチングを見せていた。
押すピッチングが目立つので、引く投球がもう少しできればと思う。これは次戦へ向けてだけではなく、次のステージで河野が活躍するための課題となるだろう。
そして打線では、2番を打つ鎌田航平や4番を打つ手束海斗の活躍が光った。鎌田は安定した打撃フォームが目立つ。トップに入ってからインパクトに入るまで無駄のない動きができており、フォームの完成度が高い。さらに目を惹いたのは二塁守備。バウンドに合わせるのが上手い二塁手で、捕球をして、送球に移行するまでの動作の素早さ、無駄のなさ、リズム感といい、かなり高レベルな二塁守備ができている。
4番を打つ手束は、1回裏、フルカウントからど真ん中のストレートを豪快に打ってレフトスタンドへ。この本塁打が高校通算39号本塁打。四国ではナンバーワンの本塁打数で、まさに四国地区ナンバーワンに相応しいパフォーマンスを全国の高校野球ファンに見せつけたのであった。これを打つまでの過程が良く、際どい変化球やストレートをどんどん粘って、佐久長聖バッテリーはこれしかないと思ってストレートを投げ込んだ。結果的に勝負を避ければと思う内容だったかもしれないが、手束の打撃内容として参考になるものは、どれだけ甘い球を呼び込めるかという点に尽きる。手束は厳しいコースには見送り、そして変化球やストレートも自分の狙い通りのボールでなければ、どんどん粘っていく。これがスラッガーとして大事な技術なのだろう。
スクエアスタンスで構える姿には威圧感を感じさせ、投手の足が着地したところから始動を仕掛け、ゆったりとトップを取って、弧を描くようなスイング軌道はまさに長距離打者のような打ち方。この打ち方を木製バットでもしっかりと実演できれば、木製バットでも本塁打を連発できるだろう。さらにこの試合では第2打席では粘りに粘って四球、第3打席には外角直球を右前安打。打撃には隙が少なく、対応力の高さを示した。守備を見るとスローイング自体は強肩で、守備の動きは悪くない。次のステージでも強豪大学や、社会人でもプレーできる可能性を示したといっていいだろう。
敗れた佐久長聖だが、2回途中でリリーフした塩沢 太規が好投を見せた。右オーバーから繰り出す直球は、常時130キロ中盤~138キロと突出した球速ではないのだが、2年生の段階で、これほどの球速ならば十分で、来年には140キロを十分に期待できるだろう。首脳陣にはしっかりと腕が振れることを評価されているが、それは塩沢の身体の使い方が上手いから。左足を高々と上げてから、お尻から先行するフォームで、テークバックの動きを見るとしっかりと肘が上がり、腕を振ることができる。だからストレートも良く、そして同じ腕の振りで投げ込む縦スライダーの切れも抜群であった。
鳴門の4番・手束に対しても内角へ投げ込んだ強気とそしてそこに投げられる技術の高さ。試合には敗れてしまったが、この経験は大きなものになったはず。ぜひ来年の長野県を代表する投手となってほしい。
そして佐久長聖の主将で、プロ注目のショートストップ・元山飛優。構え方を見ていても雰囲気があり、スイング軌道もキレイなのだが、どうも、ストレートが強く叩けない。やはりプロを目指すとなれば、河野クラスのストレートからしっかりと強い打球を打ち返すことができれば、もっと評価は上がっていただろう。その後、スライダーを打って右前安打。ストレートを叩いて、一、二塁間へ転がる右前安打を打ち、結果は残したが、目標のプロ入りへ、強いストレートを投げられる投手をいかにしっかりと打ち返せるか?ということをテーマに臨んでほしい。
(文=河嶋宗一)
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