関大北陽vs大阪桐蔭
なぜ大阪桐蔭は関大北陽の清水寛の投球にハマったのか?
大阪桐蔭に勝利した関大北陽。関大北陽の戦いぶりは強豪校に勝つためにはどんな戦いぶりをすればよいのか。多くのヒントを与えてくれた。
今回、大阪桐蔭打線をわずか1失点に抑えた清水寛(3年)は確かに好投手であるが、ドラフト候補という投手ではない。どんな投手なのかと説明すると、球速は130キロにも満たないが、コントロールの良さと90キロ台のカーブ、110キロ前後のスライダー、110キロ台のチェンジアップと緩急自在のピッチングで勝負する投手で、これが上手く嵌ったのだ。大阪桐蔭は、ドラフト候補の投手相手にも攻略の糸口を見せて、相手投手にプレッシャーをかけていくが、清水のような投手に成す術無しで終わるのは意外であった。これがドラフト候補に挙がる投手なれば、個人の能力が突出していたから大阪桐蔭を抑えられたと説明ができるが、清水の力量は、全国的に見ても突出した投手ではない。
大阪桐蔭打線がなぜ中山遥斗の本塁打の1点のみに終わったのか。それは清水のピッチングだけではなく、いろいろな要素が重なって、横綱・大阪桐蔭を破ることができたと考えられる。試合を振り返りながら、勝因となったポイントを明かしていきたい。
まず立ち上がりをしっかりと抑えることができた。これが1つ大きいだろう。一死から四球を与えて、3番吉澤、4番三井を打ち取ったことで何か楽になった感じはあるだろう。逆に大阪桐蔭とすれば、清水を攻略するならば、初回。ここで叩いて、清水に緩急を突く投球は通用しないよと思わせる必要があった。初回を無失点で切り抜けたことで、清水は120キロ後半の速球でストライク先行でカウントをとっていった。内角、外角、低め、高めと、打たれることを恐れず、まずストライクゾーンへ投げたのだ。
3回表、中山に本塁打を打たれ、先制を許すが、清水は全く動揺する様子もなく、次の永廣 知紀、3番吉澤 一翔を外野フライに打ち取った。そして4回表も三井をチェンジアップで空振り三振に打ち取り、その後、後続打者を打ち取るなど、清水は完全に自分のペースでピッチングができていた。そこには四球を出すことよりも、ヒットはシングルならば大丈夫という割り切りができていた。清水の落ち着いた投球に打線も応える。
4回裏、ここまで好投の高山優希(3年)に対し、関大北陽は2番高品吉弘(3年)がストレートを捉え、右前安打。3番若狭優也(3年)が凡退したが、4番兵頭治弥(3年)もストレートを捉え、痛烈な中前安打と一死一、二塁のチャンス。
一死となって、5番川崎圭汰(2年)が外角ストレートを捉え、左越え二塁打で二者生還し、関大北陽が逆転に成功する。高山は二度と打たれまいと140キロ台の速球で圧倒。8番大山遼太郎(3年)にはこの日、最速となる143キロのストレートで見逃し三振に奪って切り抜けた。この2点は関大北陽の清水にとって大きかった。
清水は緩急を使った投球で大阪桐蔭打線を交わしにいく。大阪桐蔭打線もなんとか清水を攻略しようと、各打者がバットを短く持ってミートしようとする。今度は守備陣が応える。外野手は深く守っていたが、ちょうどその位置にピンポイントに打球が来る。さらにゴロが飛べば、内野手が球際の強さで軽快に処理。特に遊撃手の若狭が、6回、8回と逆シングルの打球を軽快なグラブさばきで処理してアウトにしたプレーは絶妙だった。
強豪校は1つの綻びから一気に畳みかけて逆転できる。大阪桐蔭は1つのきっかけから一気に追い上げることができるチームだが、関大北陽は大阪桐蔭に攻略させるきっかけを与えなかった。それは
・エース清水がスローカーブを中心とした緩急自在の投球ができていたこと
・清水はストライク先行の投球が常にできるので、四球から崩れない
・外野手のポジショニングが絶妙なので、ロングヒットが出ない
・内野手の球際が強いので、エラーからの出塁がない
・捕手・大山がかなりの強肩
崩れる要素が見当たらなかったのだ。大阪桐蔭からすればかなり嫌らしい。2対1とたったの1点差だが、関大北陽の強かな野球が大阪桐蔭の選手たちにプレッシャーを与えていたのだ。一番は清水の投球だが、味方野手が崩れてしまっては意味がない。月並みの話かもしれないが、関大北陽が全員の力を結集して勝利をもぎ取ることができたのだ。1人だけが良い。これでは決して大阪桐蔭に勝つことはできなかった。だから強豪校と戦う時は、もう一度、強豪校と戦える土俵に立っているのか、見直すことがとても大事だといえるだろう。
またエース・高山の速球に振り負けないよう好球必打ができた打線も良かった。その中でも存在感を見せていたのは逆転打を打った5番川崎。この試合では二塁打と三塁打の2安打。スクエアスタンスで構える川崎は狙い球に対し、スムーズにバットが出る。打てるゾーンが広く、鋭い打球を打てる右打者で、まだ2年生ということで楽しみな選手だった。
会心の野球ができた関大北陽。甲子園出場へ向けて、さらにのろしを上げていきたいところだ。
最後に大阪桐蔭のエース・高山優希に触れたい。選抜後、腰の故障に苦しんでいたという高山だが、夏にしっかりと間に合わせてきた投球だった。ワインドアップから始動し、ゆったりと右足を上げていきながら、テークバックを大きく取って振り下ろす速球は、最速145キロを2球計測。といえば、聞こえは良いが、立ち上がりから130キロ~140キロ程度とこれほどストレートにスピード差のある投手もいない。これを意図的にやっているというより、まだリリースの感覚をつかみきれていないといえる。
高山はピンチになると、130キロ後半~140キロ前半と球速を高めていくが、できればランナーがいない時に圧倒した投球を見せていきたいところ。3回まで無安打の投球を見せたが、ランナーがいない時のストレートはやや甘い。そういう隙を関大北陽打線は見逃さなかった。
だが、トータルで振り返ると、1つ1つのボールの質はかなり高い投手であることは間違いなく、最速145キロを計測した2球はいずれも三振を奪った。そのストレートは間違いなくドラフト上位級。そして125キロ前後のフォーク、120キロ前後の横滑りするスライダー、110キロ前後のカーブの精度も高く、打者の手元で鋭く曲がっている。4回以降、何度もピンチを招いたが要所でうまくまとめるピッチングはさすがで、計11奪三振と、ドラフト候補として見応えのあるピッチングは魅せることはできた。
故障明けということで、あまり状態が上がらないと聞いていたが、想像以上に力強い投球だった。まだ完全に戻ったわけではない。高山の潜在能力から考えれば、こんなものではないと思っているので、勝ち進んでいけば、もっと迫力十分のストレートを投げ込む可能性は持っていただろう。3回戦で終わるのは本当に惜しい投手。この悔しさが次のステージでプレーするエネルギーになることを期待したい。
(文=河嶋 宗一)
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