試合レポート

春日部共栄vs叡明

2016.07.20

「春日部共栄、決して褒められない勝利」

 Cシード・春日部共栄対スタメンに1,2年生が7人という若いチーム叡明との一戦、新人戦では叡明春日部共栄に勝利していたことや、春日部共栄が今大会これまでの2試合で打線がつながりを欠いていたこともあり、春日部共栄は苦戦するのではと戦前ささやかれていたが、案の定試合はもつれる展開となった。

 春日部共栄大道温貴(3年)、叡明は背番号9の軟投派石井海士(2年)が先発する。春日部共栄関谷将貴(3年)の打順を1番から3番へ変更、叡明は三上ケビン(2年)が今大会初先発し試合が始まる。叡明はなぜエース中山雄太(2年)を先発に立てないのか疑問符が付いたが、それはゲームが始まって徐々にわかることとなる。

 試合はゲーム序盤から春日部共栄のペースで試合が進む。

 春日部共栄は初回、石井の立ち上がりを攻め、一死から2番・伊藤束紗(3年)がセンター前ヒットで出塁すると、続く関谷もレフト前ヒットを放ち一死一、二塁とする。さらに4番・濱田大輔(3年)のセカンドゴロで二死二、三塁とすると、5番・又吉一瑳(2年)が右中間へタイムリーを放ち先制するのだが、二走・関谷が本塁へ生還する前に又吉が二塁で刺されてしまい得点は1点のみで終わるというややもったいないスタートを切る。

 だが、春日部共栄は2回表にも、この回先頭の山﨑星夜(3年)がレフト前ヒットを放ちすぐさま二盗を決めると、続く本田朝大(3年)も四球を選び無死一、二塁とする。8番・石川広大(3年)がきっちりと送り一死二、三塁とすると、ここで続く大道がライト前へ2点タイムリーを放ち3対0とし事なきを得る。

 一方の叡明もその裏すぐに反撃を開始する。二死から7番・山﨑流星(2年)がライト前ヒットを放つと、叡明ベンチは続く三上の所でエンドランを掛ける。ここで三上は期待に応え右中間へタイムリー二塁打を放ち1点を返す。

 だが、春日部共栄は4回表、この回先頭の大道がショートゴロエラーで出塁すると、続く多田がきっちりと送り一死二塁とする。二死後3番・関谷がレフト前タイムリーを放ち1点を追加すると、叡明ベンチはこの回で石井を諦め5回からエース中山をマウンドへ送る。

 だが、その投球を見て愕然とした。春見た時からリリースの位置が下がりやや横振りでスリークウォーターの投手になっていた。球威もなくかわすピッチングに終始する。こういう投球では春日部共栄打線相手に厳しいかと思われたが案の定捉まる。


6回表、春日部共栄は二番手・中山を攻め立てる。この回先頭の石川がレフト前ヒットで出塁すると、続く大道の犠打が内野安打となり無死一、二塁とチャンスが広がる。1番・多田がきっちりと送り一死二、三塁とすると、続く伊藤が四球を選び一死満塁とし3番・関谷を迎える。ここで関谷はきっちりと犠飛を放ち5対1とし試合の主導権を握る。

 春日部共栄は7回表にもこの回先頭の濱田が四球で出塁すると、続く又吉の所でエンドランを掛けこれが相手の野選を誘い無死一、二塁、さらに7番・山﨑も四球を選び無死満塁とする。春日部共栄はここで畳みかけコールドも視野に入れたい所であったが、続く本田がピッチャーゴロ併殺に倒れると後続も打ち取られ無得点に終わる。

 なかなかとどめを刺せない春日部共栄に対し、ここから叡明へ流れが傾き始める。

 7回裏、叡明は二死から大湖がレフト前ヒットを放つと、続く池田颯(3年)が左中間へタイムリー二塁打を放ちまず1点を返す。さらにこの回途中から大道が盛んに左足を気にしだす。おそらく足が攣りかかっていたのであろう。春日部共栄サイドに暗雲が立ち込め始める。

 それでも、春日部共栄は8回表、二死から3番・関谷がサードへの内野安打で出塁すると、続く濱田がレフト線へ二塁打を放つ。途中からレフトへ回っていた三上がクッションボールの処理を誤る間に、一走・関谷が長躯ホームインし1点を追加し6対2とする。

 8回表に流れを引き戻し、4点差、ここまで3試合すべて大道が投げていることもあり、大怪我をする前に他の投手にスイッチする選択肢もあったが、春日部共栄ベンチは大道に続投を指示する。だが、これが裏目と出る。

 8回裏、叡明はこの回先頭の島田真尋(2年)が四球で出塁すると、続く室賀優斗(2年)が三塁線を破る二塁打を放ち無死二、三塁とチャンスが広がる。


 一方、苦しい展開に春日部共栄・大道はこの辺りから気迫を前面に出す投球に切り替える。それが奏功し連続三振を奪うなど二死まではこぎつけたが、7番・山﨑に高めに浮いた変化球を捉えられセンター前タイムリーを浴び1点を失うと、さらに二死一、三塁から汚名返上に燃える三上にライト越えの2点タイムリー二塁打を浴びついに1点差とされてしまう。

 ここまで行ってしまうと、今大会まだ1イニングも投げていない投手をマウンドには送りづらい。春日部共栄サイドは、エースと心中を決意する。

 迎えた9回裏、叡明は一死から3番・島田がセンター前ヒットを放つと、続く室賀は四球を選び一死一、二塁とする。だが、5番・石井の打球はショートライナー併殺となり万事休す。結局春日部共栄が6-対5、1点差で辛くも逃げきり5回戦へ駒を進めた。

 まず、叡明だが、登録メンバーがほぼ1,2年生ながら春日部共栄相手に見せた終盤の猛反撃は見事であった。しかもエース大道から10安打を放ったことは今後への財産となるであろう。新チームでは三上、室賀を中心とした叡明打線は脅威となるであろう。それだけに悔やまれるのは序盤の失点だ。結果的には石井の先発は失敗に終わった。あの投球内容であれば一巡で諦めるかと思われたが、4回まで引っ張った。それはおそらく、現在エース中山の調子が悪い事も影響しているのであろう。中山は悪いなりに良く投げたが、今後の事を考えるとその投球フォームも含め投手陣にやや不安材料を残した。

 一方の、春日部共栄だが、勝ちはしたが決して褒められない試合内容であった。もし叡明のエース中山が本調子だったらと思うとぞっとする。この日の打線のつながりに関してはまずまずであったが、この日は相手投手陣が悪かっただけに何とも言えない。むしろこの日は、早い段階で試合を終わらせなければいけない展開であった。

 とどめを刺せないでいると得てしてこういう展開が待っている。初回の走塁ミスなども含めて、詰めの甘さがここへ来てチームに大きな影を落としている。初戦、二戦目とエース大道を立ててしまい、接戦となってしまったことで他の投手の出番がなくなってしまった。埼玉大会は長丁場である。そもそもそういう状況であるならば大道も、8割程度の力で制球重視のピッチングというメリハリをつけなければならないのだが、やや投球に力みが見られ勝負所で甘くなる。

もちろん、その140km近い直球は威力、球威共に魅力的ではあるのだが、その結果、まだ4回戦ながら足を攣りかけるなど大道は既に疲労困憊である。今後はそれなりに勢いに乗っている相手が続くだけに新しい投手を立てるのはリスクが伴う。大会序盤でエースを休ませながら戦うことができなかったことが今後チームにどんな影響を及ぼすのか。春日部共栄は今後へ向けて大きな不安を残した勝ち上がりであった。

(文=南 英博

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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