花巻東vs敦賀気比
花巻東が見せた徹底力で選抜優勝投手・平沼を攻略
これが連覇の重圧というものか。敦賀気比のエース・平沼翔太の調子が上がらない。球速は140キロを超えることはあっても、昨夏の甲子園で見せた躍動感あるストレートが見えない。右投手はストレートの速さが求められる傾向にあるが、それだけではないところを平沼は見せてくれる投手であった。
平沼もそれを自覚しながら投げられるクレバーさがある投手であったが、この試合の平沼は何か攻めの投球、遊び球を使った投球もできず、どこか余裕のなさを感じた投球であった。
それをさせた花巻東の攻撃が見事であった。この試合、花巻東は周到に準備をして試合に臨んでいる。打線を見ると外角よりベルトゾーンを狙い球に絞り、ベース近くで打席に入っていた。覆いかぶさっており、下手に手元で狂えば死球の怖さがある。この日は外角打ちの戦略がしっかりとはまった。
3回表、一死から2番福島圭斗(2年)は外角高めに入るスライダーを打ち返し、安打で出塁すると、二死二塁。4番熊谷星南(2年)が外角高めの直球を打ち返し、適時三塁打で1点を先制。さらに4回表二死満塁から福島圭斗の2点適時打、千田京平の適時打で4対0とする。2人も外の球に狙いを絞っており、敦賀気比のバッテリーの傾向を掴んだ攻めである。平沼は一旦、レフトに入り、2番手でマウンドに登ったのは山崎颯一郎(2年)だ。
188センチの長身から角度ある速球を武器にする投手。ただこれまでのイメージからすると、不安があった。踏み込んだ足が大きく割れて、体を大きく捩じるフォームで、無理のある投げ方であった。だがこの日の山崎はだいぶスムーズになった。メカニズム的なものは大谷翔平を意識したフォーム。左足をスッとあげた時のバランスが、格段に良くなり、そこから軸足にしっかりと体重が乗り、踏み出す左足は以前よりもスムーズに踏み出すことができるようになったことで、体重移動がかなり良くなった。昨秋は力を持て余しているように見えたが、今年はポテンシャルを引き出すことができている。
角度ある速球は常時140キロ~144キロを計測。実に伸びがあり、見栄えがあった。さらに速くなってくれるだろうという期待感を持たせ、来年のドラフト候補としてピックアップしたくなる逸材だった。
敦賀気比は5回裏に篠原涼(3年)が3ランを放ち、3対4と1点差に迫り、後半勝負に持ち込める準備はできた。
そして6回表も山崎が抑え、反撃態勢にしたいところ。6回裏、二死一、二塁で山崎が打席に回ったところで、代打・藤原 巧海(3年)に交代。しかし藤原は投ゴロに倒れ、同点とはならなかった。
敦賀気比は再び平沼がマウンドに登る。これを見て、敦賀気比は平沼が中心のチームだと再確認した。俺らのエースは平沼なんだ!そう選手たちが、納得しているように感じた。
だが花巻東は待っていたかのように積極的なスイングで平沼を攻略。佐藤唯斗の適時打、8回表には福島、熊谷、佐々木勇哉の3人の適時打が飛び出し8対3と大きくリード。計18安打の猛攻であった。敦賀気比バッテリーの狙いを見事に読んだ攻撃だった。
この安打数で、よく18安打にとどめたといってもいい。この試合、無失策で抑えるところはさすが選抜王者だった。また負けても毅然とした格好でグラウンドを去る姿はしっかりと負けを受け入れているようで、堂々としていた。
勝利した花巻東は、春に比べて攻守のレベルが間違いなく上がってきている。岩手大会から多くの接戦を勝ち抜いたことが彼らの力になっている。
(文=河嶋 宗一)
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