試合レポート

早稲田実業vs今治西

2015.08.09

甲子園は清宮を大きく育てる道場

 今大会屈指の注目選手、早稲田実清宮幸太郎(1年・一塁手)が第1試合に登場するとあって、阪神電車は朝からごった返していた。私は先着する急行電車を1本パスして次発の特急電車に乗ったが、友人のスポーツライターは2本パスしたという。甲子園駅に下車すると、甲子園球場チケット売り場までは長蛇の列が出来上がっていた。始発電車に乗って通っているもう1人の友人は、始発で来ても長い列に並ばなければならないので第1試合に早実を持ってくるのは勘弁してほしいと泣きが入っていた。それくらい大騒ぎされているということである。

 この試合前のシートノックを見ていたら今治西各選手の動きが溌剌としていた。いや、溌剌なんて表現は生易しすぎる。食ってやろう、という欲望でギラギラしていた。これはよほど引き締めていかないと早実は苦労すると思ったが、今治西は「食ってやろう」という気持ちが空回りしていた。

 今治西の投手陣に特徴的だったのは内角攻め。先発の藤原睦来は選抜大会のときは好打者として注目した選手で、本来は外野手である。スピードはこの日の最速が135キロだから大したことはない。それが急造投手とは思えない厳しい内角攻めを見せたのである。早実を食って自分たちが主役に躍り出ようという欲望の強さと言ったほうがいい。しかし、この厳しい内角攻めもコントロールが伴わなければ武器として機能しない。

 1回裏は4番加藤雅樹への死球、3回は清宮、加藤に連続死球と内角攻めがピンチを招き寄せる原因になってしまった。1回は加藤への死球後、5番金子銀佑(3年)に三塁打を浴びて先制の2点を奪われ、さらにエラーで1失点という具合。四国の友人は今大会の四国4代表校の印象を「一番活躍すると思ったのは明徳義塾ではなく今治西のほう」と言っていたが、人気校・早実が初っ端の対戦相手だったため平常心を忘れてしまったようだ。
 


 今治西の内角攻めに関しては、清宮には手厳しい甲子園の洗礼となった。5打席中、出塁した安打1、死球1以外は、一飛、中飛、二塁ゴロという内容。最速135キロの藤原とさらに速くないサイドスロー・杉内洸貴の内角攻めに青息吐息だった。

 10年に1人の強打者というキャッチフレーズがつくと、普通の高校生投手は外角に逃げるのが一般的だ。しかし、近年の打者が最も苦手とするコースは内角。それは高校生もプロも同じで、パ・リーグなどは内角を厳しく攻める投手と、それに対抗する打者が相乗作用で実力アップにつなげている。

 この日の清宮をたとえてみれば、パ・リーグ投手の内角攻めに腰が引けたセ・リーグ打者という感じだろうか。私は9年前の夏、早実の斎藤佑樹大阪桐蔭中田翔(ともに日本ハム)の内角を厳しくえぐり続けたシーンを思い出した。斎藤の内角攻めは結果的に中田の長期スランプの原因になり、翌年夏は金光大阪植松優友(ロッテ)に同じように内角を攻め続けられ、甲子園を逃した。

 次戦は左腕エース・堀瑞輝(2年)擁する広島新庄が相手。マスコミの中には広島新庄の知名度の低さから「楽な相手」と見る向きがあるがとんでもない。今治西が見せた内角攻めが有効と知った今、さらに厳しい内角攻めが予想される。さらに早実打線はスターティングメンバーに左打者が5人並んでいる。ここに左腕投手の内角攻めがくれば厳しい展開になると予想するほうが普通である。そして厳しく内角攻められ続けながら、7回には甘い初球をライト前にタイムリーを放った清宮はさすがである。甲子園は清宮を大きく育てる道場のようである。

(文=小関 順二

早稲田実業vs今治西 | 高校野球ドットコム
関連記事
・第97回全国高等学校野球選手権大会特設ページ
・夏よりも熱い!全国の野球部に迫った人気企画 「僕らの熱い夏2015」

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

関連記事

応援メッセージを投稿

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

RANKING

人気記事

2024.04.26

【春季四国大会逸材紹介・高知編】2人の高校日本代表候補に注目!明徳義塾の山畑は名将・馬淵監督が認めたパンチ力が魅力!高知のエース右腕・平は地元愛媛で プロ入りへアピールなるか!

2024.04.26

【奈良】智辯学園が13点コールド!奈良北は接戦制して3回戦進出!<春季大会>

2024.04.26

今週末に慶應vs.横浜など好カード目白押し!春季神奈川大会準々決勝 「絶対見逃せない注目選手たち」!

2024.04.26

【春季奈良県大会】期待の1年生も登板!智辯学園が5回コールド勝ち!

2024.04.26

古豪・仙台商が41年ぶりの聖地目指す! 「仙台育英撃破」を見て入部した”黄金世代”が最上級生に【野球部訪問】

2024.04.23

【大学野球部24年度新入生一覧】甲子園のスター、ドラフト候補、プロを選ばなかった高校日本代表はどの大学に入った?

2024.04.23

【全国各地区春季大会組み合わせ一覧】新戦力が台頭するチームはどこだ!? 新基準バットの及ぼす影響は?

2024.04.24

春の埼玉大会は「逸材のショーケース」!ドラフト上位候補に挙がる大型遊撃手を擁する花咲徳栄、タレント揃いの浦和学院など県大会に出場する逸材たち!【春季埼玉大会注目選手リスト】

2024.04.23

【春季埼玉県大会】地区大会屈指の好カードは川口市立が浦和実を8回逆転で下し県大会へ!

2024.04.22

【和歌山】智辯和歌山、田辺、和歌山東がベスト8入り<春季大会>

2024.04.23

【大学野球部24年度新入生一覧】甲子園のスター、ドラフト候補、プロを選ばなかった高校日本代表はどの大学に入った?

2024.04.23

【全国各地区春季大会組み合わせ一覧】新戦力が台頭するチームはどこだ!? 新基準バットの及ぼす影響は?

2024.04.05

早稲田大にU-18日本代表3名が加入! 仙台育英、日大三、山梨学院、早大学院の主力や元プロの子息も!

2024.04.02

【東京】日大三、堀越がコールド発進、駒大高はサヨナラ勝ち<春季都大会>

2024.04.12

東大野球部の新入生に甲子園ベスト4左腕! 早実出身内野手は司法試験予備試験合格の秀才!