新田vs高知中央
田中 蓮(新田2年)のシュートから見る「愛媛野球の系譜」
最速138キロを出し8回97球2失点完投の高知中央・楠瀬 駿克(3年)
「なんで打てないんだろう?」
そんな表情を浮かべながら前日(試合レポート)、7回で14安打9得点の猛打を見せた高知中央のバッターたちが一塁側ベンチへと戻っていく。
彼らの前に立ちはだかるのは早々に降板した前日(試合レポート)のリベンジを期す、新田の2年生エース・田中 蓮(177センチ69キロ・右投右打・松山市立小野中出身・第8回15U全国Kボール野球秋季大会愛媛県選抜)。最速126キロとストレートは平凡な球速。にもかかわらず「もう1本が出なかった、リズムに乗り切れず捉えきれなかった」(河内 紘宇監督)。
高知中央は7安打を放つも、得点は6回表一死二塁から6番・福居 泰人(3年・二塁手・右投左打・166センチ63キロ・兵庫北播リトルシニア<兵庫県>出身)が中前に放った適時二塁打に留まった。
対する高知中央先発・楠瀬 駿克(3年・167センチ70キロ・右投右打・南国マリナーズ<ヤング>出身)が最速138キロの力あるストレートと、縦に落ちるスライダー・フォークを駆使する「力投型」として新田打線を97球4安打2失点に封じただけに、田中蓮の「軟投」がひときわ際立つ形となった。
ではなぜ、田中は強打・高知中央打線を抑えられたのか?右打者インコースをえぐる110キロ台の変化球にその答えがあった。
「10安打以上打たれると思っていたが、1失点に抑えられてよかった」と安堵の表情だった田中に球種を聴くと……。
「あれはツーシームです」
いわゆる「シュート」である。
131球1失点完投・内角シュートが冴えた新田・田中 蓮(2年)
田中・乘松 幹太(3年主将・捕手・174センチ68キロ・右投右打・松山市立内宮中出身・第7回15U全国Kボール野球秋季大会愛媛県選抜)は、近年の高校生投手ではほとんど操る者がいないシュートを最大限活用する。
たとえばシュートでファウルを打たせ、90キロ台のスローカーブでカウントを取ってから、外角高めの120キロ台後半ストレートで空振り三振。あるいは、同速度帯のスライダーからシュートのコンビネーションでフライ・内野ゴロ。見事な配球が新田、初の春季四国大会決勝戦進出の原動力になった。
ここでセンバツを思い出してほしい。二松学舎大附(東京)を破り、準優勝(試合レポート)の東海大四(北海道)相手にも好投した(試合レポート)松山東・亀岡 優樹(3年・170センチ72キロ・右投右打・東温市立重信中出身・第7回15U全国Kボール野球秋季大会愛媛県選抜)の決め球も右打者インコースをはじめ、自在に操れる「ツーシーム」。
さらに時代を遡れば、現在ビックコミックスペリオール(講談社)で連載中「江川と西本」のモデルである西本 聖氏(現:ハンファ・イーグルス<韓国>一軍投手コーチ)も、松山商時代に会得した「シュート」を磨き続け、読売ジャイアンツ、中日ドラゴンズ、オリックス・ブルーウェーブで計165勝の大投手となった。
「人が投げられない変化球を投げる」。これは愛媛野球が「野球王国」として君臨するために歩んできた伝統文化。西本氏や亀岡に続き、田中 蓮もまた、その系譜を歩みそうとしている。
(文=寺下友徳)