大洲vs野村
引き継がれる上甲イズム、大洲で「賢」・野村で「力」輝く
先発・中本 祐介(大洲)
去る9月2日に胆管がんにより67歳の若さでこの世を去った上甲 正典・済美(愛媛)前監督。
9月12日に同校女子ソフトボール部監督、松山商業でも強打の4番として鳴らした乗松 征記・新監督が新監督に就任。よって上甲氏の肩書きは「現」から「前」に変わったものの、氏のイズムは宇和島東・済美のOBたちをはじめ、日本野球の各所に引き継がれている。
そしてこの試合では、宇和島東時代に上甲監督の薫陶を受けた2人が激突した。
2010年夏には母校・宇和島東を率い、愛媛県大会決勝では見事済美を破って師匠越えを果たした(試合レポート)大洲・土居 浩二監督。
対するは2009年秋にはわずか選手17名の野村を率い、県大会3位決定戦で済美と激闘を演じ(3対4)、翌年春には県大会初優勝、続く四国大会でも小松島を破り(試合レポート)ベスト4に入る快挙を演じた長瀧 剛監督。いずれも実績十分の指揮官である。
結果は8月に南予地区新人戦を3年連続で制した(4度目)大洲が初回の5得点と中盤以降の着実な加点により7回コールド勝ちで八幡浜の待つ代表決定戦へ。ただ、その内容はそれぞれの目指すものが明確に伝わる、実に興味深いものであった。
1回裏2ラン本塁打を放った田中 力(野村)
大洲のテーマは「賢さ」である。
「子供たちが自分たちで相手の対策を取り始めたので、僕がいうこともなくなりました。ニコニコできるようになりました」(土居監督)。野村の2投手に対し、17安打を放ったバットコントロールの確かさ。変則左腕・中本 祐介(2年・投手・左投左打・175センチ75キロ・内子町立五十崎中出身・2012年Kボール野球秋季大会愛媛県選抜メンバー)によるチェンジアップ、スライダーの使い方。そこには随所にナチュラルなパワーが持ち味である野村のパワーを封じる意図が表れている。
その野村では4番の田中 力(2年主将・一塁手・右投右打・西予市立野村中出身)が3打数3安打。
特に初回の高校通算11本目となる2ランは、5点を先制された直後、「チームを救うのがお前の役目と言っている」長龍監督の気持ちを汲んだ執念の一発。加えて中本祐の内角低目へ沈むチェンジアップ系のボールに対し、184センチ100キロの体幹を支えきりながら、腕をたたんで前さばきでスタンドに運ぶ高等技術も文句なしである。
とかく人材不足が叫ばれる四国の2年生選手であるが、田中力の持っている潜在能力は、間違いなく全国クラス。これから春までの成長があれば「逸材」が「ドラフト候補」になる可能性は、極めて高い。
「賢さ」と「力」をもって、個とチームを強くする。それぞれの道は異なれど、そこには「上甲イズム」が脈々と流れている。
(文=寺下友徳)