聖光学院vs佐久長聖
聖光学院・船迫大雅(3年)の超高速テンポと横変化スライダーで佐久長聖を手玉に
直接の勝因とは言えないが、脚力の差が点差に表れたような気がする。
私の俊足の基準、「打者走者の一塁到達4.3秒未満、二塁到達8.3秒未満、三塁到達12.3秒未満」をクリアしたのは佐久長聖の1人1回に対して、聖光学院は5人5回もいた。
さらに鈍足の基準、「打者走者の一塁到達5秒以上、二塁到達9秒以上、三塁到達13秒以上」は佐久長聖の1人1回に対して、聖光学院は0人。
これくらい脚力に差があれば4、5点以上の得点差がつくのが当然で、それが4対2の得点に収まったのは佐久長聖の投手陣が頑張ったからだ。
先制したのは佐久長聖。
1回裏、安打で出塁した2番森井鴻太朗(2年)を一塁に置いて、4番田辺直輝(2年)が右中間に運ぶ二塁打(9.15秒)で一塁走者を迎え入れる。
取られたら取り返すのが今大会の逆転の法則である。
2回表、聖光学院は4番安田光希(3年)がレフト線を破る二塁打(8.29秒)で出塁。次打者の二塁ゴロで三進後、6番飯島翼(3年)の二塁ゴロ(4.28秒)の送球間に生還して同点。
4回には先頭の3番柳沼健太郎(3年)がセンター右を超える二塁打(8.38秒)で出塁。右飛、四球で1死一、三塁になり、再び飯島のセンター犠牲フライで勝ち越し。さらに7番石垣光浩(3年)の右中間を破る三塁打(12.04秒)で1点加点し、佐久長聖を引き離しにかかる。
5回には1死後、1番八百板卓丸(3年)が中前打で出塁。
2番藤原一生(3年)のときに二盗を敢行すると、これが捕手の二塁送球エラーを誘って八百板は三進。この場面で藤原がライトに犠牲フライを放って1点と、効率よく得点を増やしていく。
佐久長聖の先発・寺沢星耶(3年)は5回、5失点と結果だけ見れば悪かったが、球持ちよく腕を振って、低めに伸びる最速141キロのストレートを両コーナーに投げ分け、来年のドラフト候補らしい投球だった。
寺沢を6回からリリーフした両角優(3年)はスプリットを主体にした投球が、社会人のベテラン投手のように見えた。
具体的に言うと富士重工業の右腕・平井英一(36歳)に重なって見えた。平井はズシリと重い球質のストレートと落差十分のフォークボールで若いときにはドラフト候補にも挙がっていた投手だ。
この平井と両角が本当によく似ている。
両角のこの日のストレートの最速は138キロ。これがズシリとキャッチャーミットを叩くような球威で、変化球はフォークボール(スプリットと紹介されている)とスライダーがある。
持ち球や球質以外にも特徴がある。それは投げ始めからフィニッシュまでの投球タイムが異様に長いのだ。
たとえば、次の試合に先発した岸潤一郎(明徳義塾)は標準よりかなり長くて2.1秒ほどで、福島孝輔(大阪桐蔭)は1.6秒ほどである。
投球タイムが長くなるほど技巧的で短くなるほど速球派になるというのはストップウォッチを押し続けてわかったことだが、両角は2.5秒以上かかる。とくに、ステップする左足を出していくところから動きがゆっくりになり、打者のタイミングをいかに外そうか腐心している様子がよくわかる。
こういう技巧的味わいの深い投手を高校野球で見られるとは思わなかった。
聖光学院の先発・船迫大雅(3年)もベテラン投手のような技巧に特徴がある。
球種や球速を言う前に、投球のテンポが異様に速い。捕手の球を受け捕ってから投球動作に入るまでのタイムはほとんど4秒くらい。この速いテンポに急かされるように佐久長聖の各打者は淡泊なバッティングを強いられた。
ストレートの速さはせいぜい130キロ台中盤くらい。しかし、超高速テンポと横変化のスライダーのキレが素晴らしく、終わってみれば5安打、2失点で佐久長聖打線を手玉に取っていた
(文:小関順二)