山形中央vs東海大四
東海大四・西嶋、山形中央・佐藤、石川が持ち味を発揮!今大会屈指の投手戦!!
見ていて心地よい投手対決だった。
投手戦という枠で見るならば、最も面白い対決だったといっても過言ではない。両チームとも遺憾なく能力を発揮し、見応えのある試合だった。
まず東海大四の先発・西嶋 亮太(3年)。
西嶋は強力打線・九州国際大附相手に緩急自在な投球で翻弄し、そして大きな話題を呼んだ「スローボール」。MLBではスローボールのことを、「Eephus pitch」(イーファス・ピッチ)と呼ばれている。
この用語を有名にしたのは、多田野数人(北海道日本ハム)だが、この言葉が生まれたのは約70年以上前といわれる。ダルビッシュ有も、スローボールを有用な武器として使っているのだ。
MLBの一流投手でさえコントロールが難しいといわれるスローボールを1人の高校生が習得に挑戦。地道な練習を積み重ねて、ついにストライクゾーン近くに収めることに成功した。そういう背景を踏まえると西嶋は遊び心がある投手というよりも、実に辛抱強く、根性のある投手だなと感じる。
西嶋の良さはそれだけではない。
まず投球フォームが良い。左足を上げた時のバランスの良さ、柔軟な股関節を活かした滑らかな体重移動、上半身の綺麗な旋回から投げ込む球持ちの良さを感じるリリース。全てにおいて筋の良さを感じる。
球速は常時130キロ中盤~130キロ後半を計測しており、球速表示以上に勢いを感じるキレのあるストレート、120キロ台のスライダー、100キロを切るカーブ。両サイド自在に投げ分けが出来ており、余裕をもって投げることが出来ていた。
山形中央打線は西嶋を打ち崩すことが出来ず0点を積み重ねる。
西嶋がスローボールを見せたのは7回表二死。中村 颯(3年)の初球に投じた。山なりの軌道を描いて、キャッチャーミットに収まった。ややストライクゾーンから外れたとはいえ、直球に比べてコントロールが難しく、不規則な動きをしやすい山なりのボールをストライクゾーン近くにコントロール出来るのだから恐れ入るしかない。
その後、136キロのストレート。打席に立った中村はそれまでのストレートより速く見えたことだろう。中村は当てるのに精一杯。遊ゴロに打ち取り、会心の投球を見せた。
一方で、山形中央の先発・佐藤 僚亮(2年)も快投を見せる。
元々山形大会では先発として活躍をしていた好左腕。愛媛小松戦(試合レポート)で最速141キロを計測したが、投手としての完成度の高さは二季連続甲子園に導いた好左腕・横山 雄哉(住友金属鹿島)より上かもしれない。
佐藤は常時130キロ後半~142キロを計測。しっかりと腕を振って、コントロールも定まっている。キレを兼ね備えたストレートが両サイドに決まる。
投球フォームはワインドアップから始動して、足上気てからのバランス、体重移動の滑らかさ、球持ちの良さを感じるリリースと、すべてにおいて完成度も高く、来年のドラフト候補として期待出来る投手であった。
5回を終わって無安打無得点。快挙も期待してみたい流れである。だが山形中央は6回裏から石川 直也(3年)を投入する。
190センチの長身から最速147キロの直球、キレのあるスライダー、カーブ、フォークと投げ分けるポテンシャルの高さは、今大会トップクラス。だが愛媛小松戦で、4回途中で6失点。0対0の場面で投入した山形中央の庄司監督はこういう緊迫した場面で抑えることが出来なければ、全国上位には行けないと読んでいるからだろう。
もしこのまま登板がなければ、石川はリスクが低い場面での登板に限られる。
石川は走者を出しながらも、粘り強い投球を見せる。
特に素晴らしかったのは、7回裏二死二塁。上野 純輝(3年)から空振り三振を奪ったストレートが自己最速の148キロを計測。
このストレートが実に素晴らしかった。ミットまで一直線に伸びていき、その勢いはプロの速球投手のような凄みがあった。速球が真ん中に集まり、被安打を打たれることはあっても、ここ一番のストレートは手が出せない。長身投手の育成は難しいが、甲子園で躍動した。
お互い走者を出しながらも、無得点のまま延長戦へ。
試合は延長10回表に山形中央が敵失などでチャンスを広げ、高橋 隆生(3年)の適時打で先制。さらに敵失もあり、2対0。東海大四としては悔しい失点の仕方であった。
石川は見事に守り抜き、ベスト16入り進出を果たした。
この試合は3投手の投球とも素晴らしかった。
西嶋は敗れたとはいえ、計19回を投げて、3失点。自責点は1で、防御率0.47と文句なしの快投だった。戦った2チームとも打線に力があるチーム。その相手に対して、この結果。もっと胸を張ってもいい。
山形中央の2投手は初戦に比べて成長が見えた。
佐藤はコントロールが定まり、全く隙を与えない投球。石川も走者を出しながらも、要所で抑える粘り強さが出てきた。そしてここ一番で見せる豪快なストレートには見応えがあった。
この2投手が、機動破壊に加え打撃力を兼ね備えた健大高崎相手にどんな投球を見せるのか。今から待ち遠しい。
(文:河嶋宗一)