山形中央vs小松
「スタイル貫徹」で大健闘した小松から愛媛野球が学ぶもの
先発・石川 直也(3年・右投右打・191センチ78キロ・庄内町立余目中出身)は、愛媛県では今シーズン、安樂 智大(済美3年)しかマークしていない最速147キロ、常時140キロ後半を軽々と叩き出し、2番手の2年生左腕・佐藤 僚亮(2年・左投左打・170センチ70キロ・河北町立河北中出身)はこの数年、愛媛県内の左腕高校生投手が誰1人たたき出せていない最速141キロ。
同じ公立校の立場とはいえ、体育科を備え技術向上に執心できる山形中央と愛媛小松との投手力量は、宇佐美 秀文監督が愛媛大会同様4投手をつないでも埋められないほどの差があった。
それでも、愛媛小松が勝利まであと1アウトに持ち込めたのはなぜか?打線である。
「ABC・朝日放送の甲子園中継ゲストで毎年夏の甲子園に行って思ったことは『スモール野球では勝てない』ということ。だから、バッティングに力を入れているんです。
そのバッティングで心がけなければいけないことは、シャープに、コンパクトに振るということ。高校生捕手の配球は7~8割が外ですから、右打者であれば外角を右中間に打てるようにバットを振れるチームを作ってきました。でも安樂 智大レベルになるとインロー・アウトローを狙っても打てませんから、その時は真ん中を狙わせますけど(笑)」
8月3日午前、甲子園出発を直前に控えた愛媛小松高校体育教官室。台風11号の影響で風雨が吹き付けるグラウンドを見やりながら宇佐美 秀文監督は「1点を守り勝つ」伝統の愛媛野球をあえて打破する「愛媛小松スタイル」のゆえんを話してくれた。
そしてこの日、彼らはスタイルを見事に貫いた。
初回から3連続タイムリー4打点と暴れまわった2年生4番・大上 拓真(捕手・右投右打・176センチ78キロ・新居浜ボーイズ出身)の「待ち」を作るタイミングは、愛媛勢の打者が全国で戦う上で大きなヒントを与えるものである。
また、1番・今井 雄一朗(3年・左翼手・右投左打・172センチ68キロ・新居浜スワローズ<ヤング>出身)の3回裏4得点のきっかけを作る中越二塁打と、一時は決勝打になると思われた左越2点二塁打は、レフト方向へ浜風が吹く甲子園の特性を理解したもの。
その他にも山形中央先発・石川のリズムを完全に狂わせたディレイド気味の4盗塁など、初出場とは思えない落ち着きぶりは、たとえ敗れたとしても大いに讃えられるべきであう。
しかし勝負の世界は最終的に結果で判断されるもの。
9回に3点差を逆転されたこと、あとアウト1つをとりきれなかったことは動かしようがない事実。加え、もはや「夏の甲子園勝率1位」は何の威嚇材料にならないことも、この激闘を通じて明らかになった。
ちなみに、9回表二死一塁から初球カーブを振りぬき右中間を真っ二つに割る起死回生の同点三塁打を放った山形中央5番・永井 大地(3年・右翼手・右投左打・176センチ70キロ・山形市立第9中出身)は、NPB12球団ジュニアトーナメント ENEOS CUP 2008において東北楽天ゴールデンイーグルスジュニアチームに選出されるなど山形市立本沢小時代から晴れ舞台を経験している。
愛媛小松の大健闘。しかし、そのままでは次はない。
この健闘から得られたものを共有し、「強豪・山形県勢」に勝利で恩返しする策を、愛媛県で野球にかかわるすべての人たちは真剣に考える必要がある。そう、熱がまだ残っているうちに。
(文:寺下 友徳)