鹿屋中央vs市立和歌山
好守備の競演! 鹿屋中央がしぶとい野球で大会初勝利!
面白い対決となった。
全国クラスの強豪を倒して聖地へと乗り込んできた両チーム。市立和歌山は、和歌山大会決勝戦で、投打で総合力が高く、総合力ならば全国トップレベルを誇る智弁和歌山を下した。対する鹿屋中央は、鹿児島大会決勝戦で、選抜出場の神村学園相手に、延長10回の熱戦を制し、大隅半島初の甲子園出場校として聖地へと乗り込んできた。
試合は序盤から両校の堅守が光る。
1回表、市立和歌山は一死一、三塁から4番小窪 教照(3年)の場面で、一塁走者・瀬戸口 麗(3年)が盗塁を敢行。しかし鹿屋中央の正捕手・川内 大地(3年)が見事な送球でタッチアウト。
対する市立和歌山も、1回裏、一死満塁のピンチで川内の二ゴロ併殺に打ち取り、ピンチを切り抜ける。二塁・山根 翔希(2年)の好守備が光った。
鹿屋中央も3回表に負けじと好守備を見せる。二死一塁から市立和歌山・2番山口 晟吾(3年)が左横線へ長打。これを見て一塁走者は三塁を蹴って本塁を狙うも、鹿屋中央の素早い連係プレーで走者を刺した。
市立和歌山も2併殺を完成させ、また無失策と安定した守備を披露。両チームの好守備の競演で甲子園を盛り上げた。
また両先発投手ともに、走者を出してからの粘り強い投球を披露。ロースコアでの戦いが十分に予想出来た。
堅守に支えられ投手戦となったこの試合。先制したのは市立和歌山。4回表、一死から4番小窪が右横線二塁打を放つと、5番中山 将太(2年)の適時二塁打で、市立和歌山が1点を先制する。
対する鹿屋中央は市立和歌山の先発・赤尾 千尋(3年)を打ちあぐねる。赤尾は130キロ前後の速球、スライダー、カーブを低めに投げ分ける投球。打ちやすいベルトゾーンに集まらない。この投球に鹿屋中央打線は引っかけた当たりが多くなりゴロを量産。市立和歌山ナインが好守備で赤尾を盛り立て、スコアボードに0を刻んでいく。
市立和歌山は凄みのあるチームではないが、簡単にミスをしないので、余計な失点を与えない。また打撃も左投手相手に肩が開かずにボールを捉えることが出来る技術の高さがある。攻守の完成度が高く、智弁和歌山を破ったことも頷ける。
なんとか同点に追いつきたい鹿屋中央は8回裏、ここまで好投・七島 拓哉(3年)に代えて、代打・西村 将太朗(3年)を送る。この積極策が功を奏した。西村が左前安打で出塁。二死二塁となって、3番徳重 仁(3年)の中前適時打で同点に追いついた。
鹿屋中央は、9回裏も二死一、二塁とサヨナラのチャンスを作り、山下 亮太(3年)の左前安打で、二塁走者が三塁を蹴って本塁へ突っ込んだが、これは前進守備を敷いていたレフトの好返球に阻まれ、タッチアウト。試合は延長戦へと突入する。
両チームとも決定打が出ず、迎えた延長12回裏。
鹿屋中央は一死一、三塁のチャンスを作り、9回から力投を続けていた米澤 佑弥(3年)が打席に立った。
ここで注目したのが市立和歌山の内野手の守備位置だ。同点で、裏攻めの守りなので、1点入れば、サヨナラ負け。前進守備を敷くのがセオリーだが、守備位置を見ると、中間守備。普通は併殺狙いだが、状況を見ればバックホームをしなければならないが、リスクがある。
ホームから近ければ、どんな選手でもしっかりと送球をすれば、アウトになる。だが距離が遠い中間守備は内野手の動きの速さ、肩の強さが必要になり、個人の能力に委ねられるシフトとなるのだ。
本塁封殺は難しく、併殺狙いのシフトが安全。とはいえ、三塁走者生還でサヨナラとなる場面で併殺狙いはなかなかリスクがある。ましてや左打者の米澤だ。このシフトが吉となればよかったが、裏目と出てしまった。
米澤が放った打球は緩い二ゴロ。打球が遅く、二塁・山根は前進して突っ込むだけ。処理したが、ホームからやや遠い位置だった。またバックホームしても間に合わない。緩いゴロで突っ込み、一塁走者の前で打球を捕りにいったので、一塁走者の動きが見えず、併殺も難しい。結果、ただの二ゴロとなり、鹿屋中央の三塁走者が生還し、サヨナラ勝ちを決めた。これはセカンドを責めるものではなく、守備位置の深さ、左打者の米澤が打席に立ったこと、打球の勢いの弱さなど様々な条件が重なって起こったサヨナラ劇である。またこの場面で生還するには一、三塁の走者のスタートも重要になるが、両者ともスタートが良かったのも見逃せない。
このサヨナラ劇だけがクローズアップされるが、前半の好プレーを見れば分かるように、両チームとも守備の完成度が高く、引き締まった好勝負であった。鹿屋中央は4番木原 智史(3年)を中心に打線の力強さが注目されるが、この試合のように相手に簡単に流れを渡さないしぶとい野球が出来ることを証明した。
次の相手は逆転勝利を見せた星稜(石川)である。劣勢でも跳ね返す粘りあるチームだけに、今日のような堅い守備を継続出来れば、星稜を追い込むことができるはずだ。
(文:河嶋 宗一)