試合レポート

東海大相模vs向上

2014.07.31

吉田凌の20奪三振!東海大相模が4年ぶりの神奈川大会制覇!!

 全国最多の190校が参加した神奈川大会の頂点を決める一戦は13対0という大差での決着となった。

 試合の主役となったのは東海大相模の先発・吉田凌。ここまで4試合すべてリリーフでの登板で、8回3分の2を投げて19個の三振を奪ってきた右腕の前に、向上打線は最後まで得点をあげることができなかった。
140km/hを超えているであろうストレートも威力十分なのだが、向上の打者を翻弄し続けたのはフォークボールと見間違えるような大きな落差のある縦スライダーだった。

 東海大相模は1回表に2番杉崎 成輝のホームランで先制。内寄りの高めのストレートに対してバットを体の側を通しながら最短距離でスイングした見事な一撃だったのだが、そのアーチがかすんでしまうほどの奪三振ショーが、その裏から始まる。

 先頭の好打者・三廻部憂磨を2ボール2ストライクから縦スライダーで空振り三振。続く鈴木陵史は歩かせるが、3番の菅野赳門も宝刀で空振り三振。4番の安達鴻希は四球の後、5番田村将太をスライダー2つで簡単に追い込んだ後フルカウントまで粘られるも最後は内へのストレートで空振り三振。

 2回は鈴木翔天亀井智寛大塚斗頼がスライダーで三者三振。指にかかった球は、そこまでの落差はないものの福岡ソフトバンクホークスの武田翔太のカーブの軌道に似ていると感じさせる。

 3回も9番の松澤周季、三廻部、鈴木陵を連続三振。制球も少しずつ安定してくる。ここまでのアウトはすべて三振。向上の打者も度々、苦笑いを浮かべるしかなかった。


 4回の先頭打者にヒットを許し、次打者の三振時に盗塁失敗で初めて三振以外のアウトが記録されたが、その後も吉田は奪三振を重ねていく。
投球テンポも良くなり、向上打線は途中から抜けたスライダーを狙いにいったようにも映ったが、落差の大きさに対応しきれなかった。

 吉田は9回の2アウト目も三振で取ったところで、歓喜のマウンドを先輩の青島凌也に譲ったが、そこまでで1番の大きな拍手に包まれながらベンチで待つ仲間の元へと吸い込まれていった。26個のアウトのうち三振の数は大会タイ記録となる20。
立ち上がりで制球がまだ不安定で、盗塁も絡めて1アウト3塁のチャンスを作った初回に得点していれば、試合展開は違ったかもしれないが、この日に関しては吉田の投球をほめるしかないだろう。

 攻撃面でも東海大相模は持ち味を存分に発揮した。
ホームランも3本飛び出したのだが、やはり東海大相模らしい、足を絡めた効果的な攻撃が相手の脅威になったはずだ。

 1対0で迎えた4回表。3番の豊田寛が内野安打で出塁すると、4番平山快がヒットエンドランのサインに応え、ボール気味の外角球にも関わらず流し打ってライト前ヒット。次打者の南谷勇輝の打席の2球目に平山が二盗。南谷はファーストゴロで豊田が本塁憤死するも、続く長倉蓮がヒットエンドランで三遊間を抜くヒットを放って2点目をあげて主導権を握った。

 さらに6回。ヒットで出た豊田が投手のけん制悪送球で2塁に進む。
東海大相模は1塁ランナーのとき、1球ごとにリードの大きさを変えたり、大きく取っていたリードを投手がセットに入ると約1歩分狭めたりと揺さぶりをかける。盗塁失敗もあるが、常に先の塁を狙う姿勢は相手にプレッシャーを与える。


 そうした東海大相模の「走」への意識の高さは試合前のウォーミングアップからも見て取れた。全員で揃って行う前に各自で陸上選手が行うような、走ることに特化したランニングドリルをこなしていたのだ。

 走り方の指導に力を入れたり、そのための練習に時間を割く高校は決して多くない。しかし、足が速くなることはプラス材料でしかなく、正しい走り方は怪我の防止にも繋がる。時間をかけてでも取り組む価値は十分にある。東海大相模ナインの足の運びはとてもスムーズで、チームとして大事にしていることがわかった。

 他にもキャッチボールをする前には肩甲骨まわりの運動を何種類も行っていた。140km/hを超える球を投げる投手が4人いる、今大会の7試合でタイ記録となる11本塁打をマーク。それを可能にしている理由は、根底に「体の使い方」への理解度の高さがあるからなのだろう。

 6回1死2塁となってから東海大相模は平山がまたも右打ちでファーストとセカンドの間を破る。1、3塁。南谷の打席で平山が再び二盗に成功。南谷は三振も、長倉のショートの横を抜くセンター前ヒットで豊田、平山が生還。さらに小酒井慶司がヒットエンドランで一二塁間を破り1、2塁。宮地恭平はショーゴロ併殺崩れで2死1、3塁とするが、次の吉田の打席の初球に単独スチールを敢行。吉田のプッシュバントがファールになるも、2球目にも走って2、3塁とし、吉田のヒットで2点を追加する。6対0。

 毎回、走者を背負いながらも試合を作ってきた投手の粘り、バックの好守備で踏ん張ってきた向上を仕掛けの手を緩めない波状攻撃で一気に突き放した。

 豊富な投手陣、長打力も兼ね備えた抜け目のない打線、そして相手を追い詰める機動力。
試合後、門馬敬治監督はベンチ入り選手一人一人と握手を交わしていたが、喜びとともに夏は自身初となる全国制覇に向けて、その手は自然と力がこもっていたことだろう。

(文=鷲崎文彦

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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