小松vs松山東
小松が初優勝で示した「新たなる愛媛野球」の方向性
古い過去については資料が散逸しているため断定はできないが、恐らくは春・夏・秋の通じ史上初の出来事が今大会起こった。
「愛媛大会の優勝チームが全試合で複数投手を起用」。
先発完投が美徳とされる愛媛野球にとって、この事実は非常に珍しいものである。
とはいえ、愛媛小松を率いて5年目で悲願を達成した名将・宇佐美 秀文監督もはじめからこの継投策を狙っていたわけではなかった。
5月26日に学校を訪問した際にも、「冬じゅうバッティング練習しかしていません(笑)。135キロから速度を上げていって150キロ以上に最終的に設定したストレートと、右投手・左投手別々の想定で高速スライダー・低速スライダーに対応したバッティング練習を毎日100球から200球、950gのバットを使いスイングスピード重視で打ち込んで、ティーを100球打ったら、4月頭から練習試合も15連勝するなど結果が出てきました」と、バッティングについては明らかに手ごたえを見せる一方で、投手陣についてはやや言葉を濁す場面も。
「本格派・菅 彪真(3年・右投左打・172センチ70キロ・西条市立南中出身)の右肩痛が回復してきたので、右サイド変則の松井 智也(2年・右投右打・176センチ70キロ・西条市立小松中出身)との継投でいこうと思います」。
実はこの時点では昨秋のエース格・Kボール愛媛県中学選抜でもエースナンバーを背負っていた左腕・日野 文斗(3年主将・左投左打・172センチ75キロ・西条市立西中出身)は、まだ春季県大会回避の要因となった左ひじ痛から復帰めどが立っていない。
その後、日野は復帰したとはいえ、どの投手も夏を投げぬく完投能力はなかった。となれば、選択肢は「継投」。これしかなかったのだろう。
ただ、この夏にはうれしい誤算も1つあった。
それは2年生・早柏 佑至(右投右打・176センチ70キロ・佐用スターズ<ヤング・兵庫>出身)の台頭である。
準々決勝・新居浜商業戦で先発、6回3失点で試合を作った最速136キロ右腕は、この決勝戦でも先発・松井の後を継ぎ、5・6回の2イニングを無失点好投。縦スライダーの切れ味は来年以降の飛躍すら予感させるものだった。
年々厳しくなる暑さの中、もはやエース1人が全試合完投でベストのパフォーマンスを発揮することは不可能に近いことは、安樂 智大(3年・投手・右投左打・188センチ87キロ・松山坊ちゃんボーイズ出身)が絶対的エースの済美が3回戦敗退(試合記事:東温vs済美)したことや、この試合で連投・7回3分の1・178球でついに力尽きた松山東の小さな大エース・亀岡 優樹(2年・右投右打・169センチ68キロ・東温市立重信中出身)の状態を見れば明らか。
不可抗力が重なった結果とはいえ、愛媛小松の残した試合内容は初出場の結果、3安打2打点の4番・大上 拓真(2年・捕手・右投右打・176センチ78キロ・新居浜ボーイズ出身)を中心に11安打を放った猛打線以上に、新たなる可能性を愛媛野球に提示したのではないだろうか。
普段クールな宇佐美監督が顔をくしゃくしゃにして校歌を歌い上げる姿を見て、そんなことを思った四国地区選手権大会最終日であった。
(文=寺下友徳)