東海大相模vs横浜
東海大相模・超高校級投手陣の前に、横浜屈す
神奈川大会準決勝は例年通りのお約束、収容人員3万人の[stadium]横浜スタジアム[/stadium]で行われ、ほぼ満員の中で行われた。
最初に決論めいたことを言えば、甲子園大会の決勝かと思うほどの高いレベルで両校はせめぎ合った。
今夏、地方大会を9都府県にわたり22試合を観戦したが、その中ではこの試合が断トツのナンバーだった。
まず際立ったのが東海大相模投手陣のクオリティの高さだ。
大会前から青島凌也(3年・右投右打・177cm/76kg)、佐藤雄偉知(3年・右投右打・190cm/90kg)、吉田凌(2年・右投右打・181cm/72kg)、小笠原慎之介(2年・左投左打・178cm/82kg)の存在に注目が集まったが、この試合では青島→吉田→小笠原の3人が継投して横浜の強力打線を抑えにかかった。
先発の青島は昨年9月の相模原総合戦(試合レポート)で初めて見て、好投手だと思った。一部では「まとまっているだけ」という冷めた意見もあるが、この相模原総合戦を見て、それがとんでもない的外れだと思った。それから10カ月後、青島はさらに進化した姿を見せてくれた。
投げ始めから誰かに似ていると思って仕方がない。攝津正(ソフトバンク)かな、いやもっと似ている投手がいる、と散々頭をひねって安楽智大(済美)にフォームが似ているとわかった。
剛球を押し立てる安楽とは真逆の投球スタイルだが、腕を前に振っていく段階で沈み込み、この低い体勢のままフィニッシュを迎えるところがよく似ている。さらに左手のグラブを打者に向かってひねる所作など私にはそっくりに見えた。
スポーツ新聞には3番手の小笠原が最速146キロを計測したとあるので、ここから推測すると青島も同程度の140キロ台中盤、2番手吉田は150キロ超えのストレートを投げていたと思う。
無表情の[stadium]横浜スタジアム[/stadium]のスピードガンがこの試合では終始うらめしかった。
東海大相模の超高校級投手陣に横浜はプレッシャーをかけ続けた。
2回は5番渡辺佳明の二塁打のあと、松崎健造のライトフライを東海大相模右翼手が落球して先制点を奪うが、このときのホーム生還は外野から好返球もあってタイミングはアウトに見えた。しかし、これを捕手が捕球し切れずセーフ。さらに9番伊藤将司が右前に弾き返した2点目を奪った。
自分たちで仕掛けなくても「横浜高校」の名前で相手が勝手にミスを繰り返して自滅する――たとえ相手が神奈川を代表する強豪・東海大相模であっても全国にその名を轟かす横浜の前ではこの“必敗”のパターンから逃れることはできないのかと思った。
しかしその裏、東海大相模は1死一塁の場面から8番宮地恭平、9番青島の連続二塁打で2点を返して早くも追いつく。
5回には1死二塁から4番平山快がレフト線へ二塁打を放ち逆転。
ここで間を置かず、6回には四球を挟んだ連打でさらに2点を加え、ゲームは完全に東海大相模のペースになった。
横浜で悔やまれるのは2回の失点は先頭打者への死球、6回の失点は1死後の四球が発端となったことだ。技巧で相手打者を翻弄してきた伊藤らしからぬコントロールミスと言ってもいいだろう。
5対2とリードした7回から東海大相模は好投してきた青島から吉田に継投した。
いきなり投じたストレートの衝撃は今夏ナンバーワン。これまで見てきた全国の剛腕、下館工・谷中規彦、都立雪谷・鈴木優、都立小山台・伊藤優輔、多良木・善武士、西日本短大付・小野郁さえ及ばない角度とスピード感。さらに落差が「数十センチ」と形容されていくであろうフォークボールと縦割れのスライダーのキレ味も屈指。
もしプロ志望届を出せば来年のドラフト1位は間違いないだろう。
しかしこの吉田でさえ横浜打線の前では完璧に見えない。
代わりっ端の7回、9番代打の須澤柊太が二塁打を放ち、2番打者の四球も加えて1死一、二塁とし、3番川口凌が落差十分のフォークボールをバットの先で捉えてライト前に運び、1点かと思ったが、ライトからの返球でホーム憤死してしまった。
このとき返球は右方向(左打者が立つ方向)に逸れたが、東海大相模の捕手・長倉蓮は多くの選手とは別に、時計回りの動きで走り込んでくる走者にタッチに向かい、見事刺殺した。これを左回りでタッチに向かえばわずかに時間的なロスが生まれ、横浜は3対5とし、なおも1死一、三塁のチャンスが続いた。東海大相模にとっては決勝進出を決めるビッグプレーになったと言っていい。
最終回にも横浜はチャンスを迎える。
2死走者なしから3番川口、4番高濱祐仁が連続安打で一、二塁とし、5番渡辺の右前打で1点返し、なおも一、二塁とチャンスは続く。
6番松崎のところで暴投があり、さらに吉田が松崎にストレートの四球を与え、東海大相模ベンチは吉田に代わって小笠原を投入する。
5対3の9回裏、2死満塁で相手が横浜ならどんな投手でも委縮する場面だが、小笠原は7番高井にあわや死球かというストレートを内角に投じる。これがスピードガンに「146キロ」を表示した球だと思うが、小笠原はこの際どいストレートにも何ら表情を変えない。
それからも淡々と投げ続け、高井をライトライナーに打ち取って決勝進出を決めたのだ。
ここまで横浜のドラフト候補、浅間大基と高濱の2人にほとんど触れてこなかったが、高濱は第5打席に安打は打っているがそれまでの4打席はすべて変化球にバットが空を切り三振に倒れている。緩急に対応するタイミングの取り方を覚えていかないとプロでも苦労すると思う。
浅間は無死二塁で迎えた7回、あわや2ランかと思う、ライトへの大ファールがあった。ネット裏から見た限りではフェアゾーンに入っていたと思うが、わずかに外れたようだ。この一打も含め、一塁への全力疾走も健在。
この2人を抑えた東海大相模の投手陣が立派ったと言う他ない。
(文=小関順二)