試合レポート

高松北vs多度津

2014.07.12

「ドラフト候補」塹江敦哉が仲間と共に踏み出した「大人への一歩」

 第2試合になると[stadium]レクザムスタジアム[/stadium]のネット裏観客席にはスピードガンが林立した。
そこにはNPBほぼ全球団の部長クラス含むスカウトたちと、四国アイランドリーグplus所属・香川オリーブガイナーズの西田真二監督含む首脳陣が。そして、視線の先には…塹江 敦哉高松北3年・投手・左投左打・178センチ75キロ・香川県立高松北中出身)。
済美(愛媛)・安樂 智大明徳義塾(高知)・岸 潤一郎と共に今季の四国地区高校3年生ドラフト候補投手三羽烏としてあげられる、最速148キロ左腕の登場である。

 ただ、この試合に先立つ12日前、川之江(愛媛)との練習試合で先発した彼の状態は、あえて強く書けば「最悪」であった。
120球で9回完投・奪三振8も6安打で3失点敗戦を喫した結果もさることながら、失点の内容は四球に3暴投が絡んだ正に「自滅」。心ここにあらずの投球は塹江よりスピードがないことを理解し、変則フォームを最大限生かしながら淡々と投げ、7安打無四球で完封した川之江左腕・篠原 大輝(3年・投手・左投左打・178センチ71キロ・川之江ボーイズ出身)とは真逆と言えるもの。
「一戦必勝。いい心の持ち方で臨みたい」という香川大会への意気込みも著しく説得力を欠いた。

 そして塹江以上に苦悩していたのが、高校通算本塁打34本をすでに放っている3番主将の丸井 大和高松北3年・遊撃手・右投右打・170センチ77キロ・高松レイダース<ヤング>出身)である。
塹江の状態に大きく左右されるチームの雰囲気。そのコントロールに苦心している様は試合中・試合前後の表情からもうかがえた。


 が、この日の高松北は12日前とは180度違なる「戦う集団」だった。

 塹江は1・2回と自己最速を1キロ上回る「149キロ」を出しながら、3点の援護をもらったすぐ後となる2回裏に失策も絡んでの2失点。5回には一死満塁からこの回3個目の四球で押し出し。さらに二死満塁から甘いスライダーを多度津4番・林 昭宏(3年主将・捕手・右投左打・172センチ72キロ・観音寺市立中部中出身)に左前に落とされる2点適時打で計5失点(自責点3)。
毎回の14三振を奪う一方で、与四死球5・5回まで104球を投げて167球完投の内容は川之江戦よりも劣る。

 それでもバックは常に塹江を励まし、塹江はそれに応えようと奮闘した。
打線が最速134キロの伸びがあるストレートと、内外角低めへよくコントロールされたスライダーを見事に投げ分けた多度津エース・細川 真吾(3年・投手・右投右打・170センチ71キロ・三豊市立仁尾中出身)に対し、10三振を喫しながらも丸井の大会第2号・高校通算35本塁打などで5回までに6点を奪ったのも、制球力を重視しながら三人を仕留めた6回表をきっかけに塹江が急激に立ち直ったのも、この相互信頼があったからこそだ。

 この2試合を見ていた球団も多いNPBスカウトたちが、塹江にどんな評価を下したのか。それは知る由もない。
ただ、これだけは言える。塹江 敦哉はこの日、確かに仲間と共に闘い、素晴らしい戦いを見せた多度津に競り勝ち、大人への第一歩を踏み出した。そして、その実績はともすれば、ドラフト1位指名を受けるよりも、多額の契約金を手に入れるよりも、人生において価値のあることである。

(文=寺下友徳

【野球部訪問:第108回 県立高松北高等学校(香川)】

高松北vs多度津 | 高校野球ドットコム

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

関連記事

応援メッセージを投稿

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

RANKING

人気記事

2024.04.26

【春季四国大会逸材紹介・高知編】2人の高校日本代表候補に注目!明徳義塾の山畑は名将・馬淵監督が認めたパンチ力が魅力!高知のエース右腕・平は地元愛媛で プロ入りへアピールなるか!

2024.04.26

【奈良】智辯学園が13点コールド!奈良北は接戦制して3回戦進出!<春季大会>

2024.04.26

今週末に慶應vs.横浜など好カード目白押し!春季神奈川大会準々決勝 「絶対見逃せない注目選手たち」!

2024.04.26

【春季奈良県大会】期待の1年生も登板!智辯学園が5回コールド勝ち!

2024.04.26

古豪・仙台商が41年ぶりの聖地目指す! 「仙台育英撃破」を見て入部した”黄金世代”が最上級生に【野球部訪問】

2024.04.23

【大学野球部24年度新入生一覧】甲子園のスター、ドラフト候補、プロを選ばなかった高校日本代表はどの大学に入った?

2024.04.23

【全国各地区春季大会組み合わせ一覧】新戦力が台頭するチームはどこだ!? 新基準バットの及ぼす影響は?

2024.04.24

春の埼玉大会は「逸材のショーケース」!ドラフト上位候補に挙がる大型遊撃手を擁する花咲徳栄、タレント揃いの浦和学院など県大会に出場する逸材たち!【春季埼玉大会注目選手リスト】

2024.04.23

【春季埼玉県大会】地区大会屈指の好カードは川口市立が浦和実を8回逆転で下し県大会へ!

2024.04.22

【和歌山】智辯和歌山、田辺、和歌山東がベスト8入り<春季大会>

2024.04.23

【大学野球部24年度新入生一覧】甲子園のスター、ドラフト候補、プロを選ばなかった高校日本代表はどの大学に入った?

2024.04.23

【全国各地区春季大会組み合わせ一覧】新戦力が台頭するチームはどこだ!? 新基準バットの及ぼす影響は?

2024.04.05

早稲田大にU-18日本代表3名が加入! 仙台育英、日大三、山梨学院、早大学院の主力や元プロの子息も!

2024.04.02

【東京】日大三、堀越がコールド発進、駒大高はサヨナラ勝ち<春季都大会>

2024.04.12

東大野球部の新入生に甲子園ベスト4左腕! 早実出身内野手は司法試験予備試験合格の秀才!