都立雪谷vs足立学園
鈴木優(都立雪谷)
都立雪谷・鈴木優、苦しみながらも2失点完投勝利
この試合の注目は都立雪谷のエース・鈴木 優。
鈴木は最速145キロの直球を投げるプロ注目の本格派右腕。一冬越えてどんな投球をみせるのか。対する相手は足立学園。昨秋はブロック予選敗退とはいえ、実力校だ。もし負けてしまったら、夏まで見られないという思いからか、[stadium]明大中野八王子高校野球場[/stadium]には多くのスカウトが詰めかけていた。
その鈴木の注目の立ち上がり。1番打者を打ち取ったまでは良かったが、続く2番澤田は味方の失策で出塁、さらに続く3番塚崎にも併殺を狙ったところで失策がでて4番志村を歩かし、一死満塁のピンチとなる。続く5番片倉の二ゴロの間に三塁ランナーがかえり初回に1点を失う。
その裏、都立雪谷は一死二、三塁から鈴木が打点付きの内野ゴロ、二死三塁から6番吉田の適時打で逆転に成功。2回裏にはワイルドピッチ、内野ゴロで2点を追加。3回表に、3番塚崎の犠飛で1点を返されるものの、4回裏には鈴木自らが適時三塁打を放ち、5対2と点差を広げた。
しかし初回に失点したことは本人にとってうまくリズムに乗れなかったのだろう。
安打も、四死球も出さない三者凡退が一度もなく、常にランアーを出してしまう苦しい出来であった。
鈴木は「自分はコントロールで勝負する投手。それを発揮できなくて悔しい」と語るように、140キロ台の速球が注目されるが、本来はコントロール、変化球のコンビネーションで勝負をする投手である。本人にとっては満足できない内容だった。
この試合で与えた四死球は8。乱れた原因を聞いてみた。
「やっぱり初戦ということもあって、堅くなってしまいましたし、足立学園さんを意識しすぎたところがありました」
と振り返るように初戦の緊張からか、硬さが見られた。また「技術的には開きが早かった」と分析。イニングを重ねながら修正を図った。今日のストレートの常時135キロ前後で、最速141キロを計測。スカウトのガンでは何度も140キロを計測していた。だが変化球は抜け気味の球が多く、スライダー、フォーク、カーブを織り交ぜていたが、打者が振ってくれない。良いときの鈴木はストレートと変化球のコンビネーションが面白いようにはまるのだが、変化球で勝負できないので、ストレートで勝負せざるを得ない。足立学園は直球勝負と分かっているから、ストレートに狙いを絞ってヒットを打つ。その悪循環で鈴木は苦しい投球となってしまった。
力投を見せた国兼(足立学園)
さて試合の方に話を戻すと、中盤までは都立雪谷がリードはしていてるものの、気が抜けない展開でゲームは進んでいった。
ここまで硬さが見られる都立雪谷ナイン。しかしその緊張がほぐれるプレーが起きた。
「このプレーが非常に大きかった。このプレーがなかったのはもっと苦しい試合展開となっていた」
都立雪谷の相原監督も絶賛するほどの好プレーが起こったのは6回裏。
ヒット2本で一死二、三塁のピンチを招いた鈴木。9番大山は中飛。このまま犠飛になると思われたが、都立雪谷のセンター・山北 泰輝の好返球によりダブルプレー。この試合最大のピンチをバックの好プレーで切り抜けた。
都立雪谷は8回裏に無死二、三塁から4番鈴木の遊ゴロ。これがセーフとなり、まず1点。続けて二塁走者もホームへ突っ込み、クロスプレーとなったがこれもセーフ。さらに鈴木は三塁へ陥れ、5番三井の内野ゴロで本塁を踏み、3点目。鈴木は8点の援護をもらい、2失点完投勝利で足立学園を下した。
今日の鈴木は、本来の出来ではなかったが、悪いなりに修正をしながら、抑えられるのはさすが好投手である。エースが本調子ではない中でも、選手たちがしっかりとカバーをして、得点を取ったのも秋からの成長点ではないだろうか。
「いつも仲間に助けられますが、今日も仲間たちに助けてもらいました」
感謝の念を忘れなかった。
ピンチを救ったセンターの山北(都立雪谷)
試合後、鈴木にこの試合のことだけではなく、冬の取り組みを聞いてみた。秋はブロック予選で敗退。この時、ナインは春はただシード権を取るためだけでなく、優勝するために取り組んできた。エース鈴木は絶対に負けない投手になるために、課題を2つ挙げた。ひとつは速球を速くすること、そしてもうひとつは変化球を磨くこと。
速球を速くするために冬は走り込みに、食事量を増やして体を大きくしてきた。体重は77キロまで増量し、下半身がだいぶたくましくなった。
「本人も上の世界でやりたいと思うようになってから日々の取り組みから良くなってきましたね」
相原監督も鈴木の取組みを評価する。
春季大会のために鍛えて、準備をしても、やはり初戦は難しいものである。だが緊張しながらも、初戦を立て直してながら、組み立てるのが勝てる投手の条件。後半は立ち上がりに比べると速球には勢いがあり、変化球のキレ味も戻ってきた。
今日の投球では荒削りな面が見られたが、先ほども述べたように本来はストレート、変化球を巧みに使いながら、投手として大事な繊細さを持った投手。「初戦で投げてだいぶ緊張が取れたので、次では今日よりも良い投球が出来ると思います」と発言したように、次戦は鈴木の真骨頂であるコンビネーション抜群の投球を見せてくれるはずだ。
(文=河嶋宗一)