試合レポート

延岡学園vs花巻東

2013.08.22

延岡学園・横瀬貴広が完封!花巻東の好打者の魅力

 花巻東をここまで牽引してきた2番千葉翔太(3年・中堅手・左左・156/56)が無安打に終わった。千葉の特徴は、「狙い球以外はファールし続ける」こと。しかし、この“ファール打ち”にクレームがついた。

「打者が意識的にファウルするような、いわゆるカット打法は、そのときの打者の動作(バットをスイングしたか否か)により、審判員がバントと判断する場合もある」(高校野球特別規則の『17』)――このバントの定義に千葉の“ファール打ち”が引っ掛かるというのだ。

 最初見たときは「せこいバッティングだ」と思った。捕手寄りぎりぎりまでボールを見て、ボールなら見送り、狙い球以外ならカットしてファールに逃げる。卑怯じゃないか、とも思った。しかし、済美戦の“内野手5人シフト”を見てから、印象が変わった。シャープなスイングをして強い打球を打てる打者だと感心した。
 準決勝の鳴門戦では先発・板東湧梧に41球投げさせ4つの四球を得た。四球はすべて3ボール2ストライクである。これは卑怯どころじゃない、立派な技術だと思った。
 済美戦の鋭い打球はこの選球眼あってこそだと確信した。しかし、主催者からバントの定義に引っ掛かると言われたら、そうならないようにするしかない。結果は4打数0安打に終わり、相手投手が投げた球数は10球だけだった。鳴門戦で41球投げさせ4つの四球をもぎ取った嫌らしさはまったく見られなかった。

 延岡学園横瀬貴広(3年・左左・176/80)、花巻東中里優介(3年・左左・172/72)の先発投手は、左腕の技巧派という以外でも投球間隔(捕手の返球を受け取ってから投げるモーションを起こすまで)が短いという共通点があった。横瀬は4秒台、中里はそれを上回る3秒台という猛烈な速さである。
 横瀬はこのテンポの速さから90キロ台前半のスローカーブを投げてくる。花巻東の各打者は遅速の感覚がぐちゃぐちゃになりミートさえ覚束ない。安打は4、5、8回に1本ずつ出ただけで、四球はわずかに2個だけ。打たれる気配はまったくなかった。


 延岡学園も得点を挙げたのは6回の2点だけで、中里のテンポの速い投球と内外の出し入れに凡打の山を築いた。ストレートは横瀬を上回る最速141キロを計測し、これにスライダーと逆方向に曲がるチェンジアップを交えるというのが投球の基本。得点を許した6回の投球を振り返ると、一塁に走者を置いたときのクイックに不備があった。

 一死から安打で出塁した坂元亮伍(3年・中堅手・右右・170/75)が二盗したときのクイックタイムはもはや「クイック」とは呼べない1.65秒だった。遅くとも1.3秒台で投げるというのが高校野球では共通認識になりつつあり、前橋育英高橋光成などは1.1秒台のクイックをモノにしている。
 ニ死後、5番浜田晋太朗(3年・左翼手・右右・173/70)の右前打で二塁から坂元が還り、さらに6番田中祐樹(3年・一塁手・右左・168/66)が左中間を破る三塁打を放って1点を加え、勝負は決まった。
 勝負の呼び水になった盗塁でわかるように、足を使った攻撃が延岡学園の特徴でもある。タイムリーを放った浜田はホーム返球のスキを突いて二塁に進み、5回にはバント処理がもたつく間に三進を狙った柳瀬直也(3年・捕手・右右・172/74)が走塁死する場面もあった。暴走と言われかねないが、膠着したゲーム展開の中では思い切った走塁が必要なときもある。

 ゲーム展開とは別に個人技で注目したのは延岡学園の4番岩重章仁(3年・右翼手・右右・183/83)だ。この日の結果は3打数0安打1四球と冴えないが、第1打席で遊撃ゴロを放ったとき、一塁にヘッドスラディングを試みて闘争心を鼓舞した。
 旧知の放送関係者が解説で訪れている元監督に聞いたところ、甲子園球場はよく滑るので駆け込みよりスライディングのほうが一塁到達が速い、と言われたらしい。イチロー(ヤンキース)が川崎宗則(ブルージェイズ)にヘッドスライディングは指の故障につながるからやめろ、と言ったことが世間に広まってヘッドスライディングには「百害あって一利なし」の評価が広まっているが、それとは別の価値観が強豪校を中心に広まっている。
 野球にはいろいろな情報があって、それらをさまざまに分析して考えられるから面白い。

(文=小関順二)

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

関連記事

応援メッセージを投稿

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

RANKING

人気記事

2024.04.26

今週末に慶應vs.横浜など好カード目白押し!春季神奈川大会準々決勝 「絶対見逃せない注目選手たち」!

2024.04.26

【春季四国大会逸材紹介・高知編】2人の高校日本代表候補に注目!明徳義塾の山畑は名将・馬淵監督が認めたパンチ力が魅力!高知のエース右腕・平は地元愛媛で プロ入りへアピールなるか!

2024.04.26

古豪・仙台商が41年ぶりの聖地目指す! 「仙台育英撃破」を見て入部した”黄金世代”が最上級生に【野球部訪問】

2024.04.26

【奈良】智辯学園が13点コールド!奈良北は接戦制して3回戦進出!<春季大会>

2024.04.26

【春季奈良県大会】期待の1年生も登板!智辯学園が5回コールド勝ち!

2024.04.23

【大学野球部24年度新入生一覧】甲子園のスター、ドラフト候補、プロを選ばなかった高校日本代表はどの大学に入った?

2024.04.23

【全国各地区春季大会組み合わせ一覧】新戦力が台頭するチームはどこだ!? 新基準バットの及ぼす影響は?

2024.04.24

春の埼玉大会は「逸材のショーケース」!ドラフト上位候補に挙がる大型遊撃手を擁する花咲徳栄、タレント揃いの浦和学院など県大会に出場する逸材たち!【春季埼玉大会注目選手リスト】

2024.04.22

【和歌山】智辯和歌山、田辺、和歌山東がベスト8入り<春季大会>

2024.04.22

【九州】神村学園、明豊のセンバツ組が勝利、佐賀北は春日に競り勝つ<春季地区大会>

2024.04.23

【大学野球部24年度新入生一覧】甲子園のスター、ドラフト候補、プロを選ばなかった高校日本代表はどの大学に入った?

2024.04.23

【全国各地区春季大会組み合わせ一覧】新戦力が台頭するチームはどこだ!? 新基準バットの及ぼす影響は?

2024.04.05

早稲田大にU-18日本代表3名が加入! 仙台育英、日大三、山梨学院、早大学院の主力や元プロの子息も!

2024.04.02

【東京】日大三、堀越がコールド発進、駒大高はサヨナラ勝ち<春季都大会>

2024.04.12

東大野球部の新入生に甲子園ベスト4左腕! 早実出身内野手は司法試験予備試験合格の秀才!