延岡学園vs花巻東
延岡学園・横瀬貴広が完封!花巻東の好打者の魅力
花巻東をここまで牽引してきた2番千葉翔太(3年・中堅手・左左・156/56)が無安打に終わった。千葉の特徴は、「狙い球以外はファールし続ける」こと。しかし、この“ファール打ち”にクレームがついた。
「打者が意識的にファウルするような、いわゆるカット打法は、そのときの打者の動作(バットをスイングしたか否か)により、審判員がバントと判断する場合もある」(高校野球特別規則の『17』)――このバントの定義に千葉の“ファール打ち”が引っ掛かるというのだ。
最初見たときは「せこいバッティングだ」と思った。捕手寄りぎりぎりまでボールを見て、ボールなら見送り、狙い球以外ならカットしてファールに逃げる。卑怯じゃないか、とも思った。しかし、済美戦の“内野手5人シフト”を見てから、印象が変わった。シャープなスイングをして強い打球を打てる打者だと感心した。
準決勝の鳴門戦では先発・板東湧梧に41球投げさせ4つの四球を得た。四球はすべて3ボール2ストライクである。これは卑怯どころじゃない、立派な技術だと思った。
済美戦の鋭い打球はこの選球眼あってこそだと確信した。しかし、主催者からバントの定義に引っ掛かると言われたら、そうならないようにするしかない。結果は4打数0安打に終わり、相手投手が投げた球数は10球だけだった。鳴門戦で41球投げさせ4つの四球をもぎ取った嫌らしさはまったく見られなかった。
延岡学園・横瀬貴広(3年・左左・176/80)、花巻東・中里優介(3年・左左・172/72)の先発投手は、左腕の技巧派という以外でも投球間隔(捕手の返球を受け取ってから投げるモーションを起こすまで)が短いという共通点があった。横瀬は4秒台、中里はそれを上回る3秒台という猛烈な速さである。
横瀬はこのテンポの速さから90キロ台前半のスローカーブを投げてくる。花巻東の各打者は遅速の感覚がぐちゃぐちゃになりミートさえ覚束ない。安打は4、5、8回に1本ずつ出ただけで、四球はわずかに2個だけ。打たれる気配はまったくなかった。
延岡学園も得点を挙げたのは6回の2点だけで、中里のテンポの速い投球と内外の出し入れに凡打の山を築いた。ストレートは横瀬を上回る最速141キロを計測し、これにスライダーと逆方向に曲がるチェンジアップを交えるというのが投球の基本。得点を許した6回の投球を振り返ると、一塁に走者を置いたときのクイックに不備があった。
一死から安打で出塁した坂元亮伍(3年・中堅手・右右・170/75)が二盗したときのクイックタイムはもはや「クイック」とは呼べない1.65秒だった。遅くとも1.3秒台で投げるというのが高校野球では共通認識になりつつあり、前橋育英の高橋光成などは1.1秒台のクイックをモノにしている。
ニ死後、5番浜田晋太朗(3年・左翼手・右右・173/70)の右前打で二塁から坂元が還り、さらに6番田中祐樹(3年・一塁手・右左・168/66)が左中間を破る三塁打を放って1点を加え、勝負は決まった。
勝負の呼び水になった盗塁でわかるように、足を使った攻撃が延岡学園の特徴でもある。タイムリーを放った浜田はホーム返球のスキを突いて二塁に進み、5回にはバント処理がもたつく間に三進を狙った柳瀬直也(3年・捕手・右右・172/74)が走塁死する場面もあった。暴走と言われかねないが、膠着したゲーム展開の中では思い切った走塁が必要なときもある。
ゲーム展開とは別に個人技で注目したのは延岡学園の4番岩重章仁(3年・右翼手・右右・183/83)だ。この日の結果は3打数0安打1四球と冴えないが、第1打席で遊撃ゴロを放ったとき、一塁にヘッドスラディングを試みて闘争心を鼓舞した。
旧知の放送関係者が解説で訪れている元監督に聞いたところ、甲子園球場はよく滑るので駆け込みよりスライディングのほうが一塁到達が速い、と言われたらしい。イチロー(ヤンキース)が川崎宗則(ブルージェイズ)にヘッドスライディングは指の故障につながるからやめろ、と言ったことが世間に広まってヘッドスライディングには「百害あって一利なし」の評価が広まっているが、それとは別の価値観が強豪校を中心に広まっている。
野球にはいろいろな情報があって、それらをさまざまに分析して考えられるから面白い。
(文=小関順二)