試合レポート

樟南vs佐世保実

2013.08.12

クレバーな配球を見せた樟南バッテリー

 この試合で注目していたのは4年ぶりの甲子園出場を導いた樟南山下 敦大(3年)と緒方 壮助(3年)のバッテリーである。このコンビが決勝戦で、優勝候補と見られていた横田 慎太郎(3年)を擁する鹿児島実業に競り勝ち、甲子園に勝ち進んできた。やはり彼らは玄人受けするようなピッチングを見せたのである。山下は130キロ前半の直球、カーブ、スライダー、スクリューを投げ分ける技巧派左腕。制球力は安定していて、幅広い投球を実現できる。ピッチングは速さですべてが決まるわけではない。ストライクゾーンの枠を自在に投げ分けられ、そしてマックスのスピードからどれだけ球速差をつけた変化球で、打者のタイミングを外し、内野ゴロを打たせられるか。彼はそういうことができる投手である。

 山下の長所は四死球を出しても動じないこと。この試合は四死球6つも出していた。ただ彼は制球力がないわけではない。慎重にコーナーを投げた結果、若干外れ四球になることがあった。だから彼は四球を出しても気にする素振りがない。攻めた結果が四球になるのは仕方ないと割り切っているのだろう。ランナーを置きながらもしっかりと間を置きながら勝負ができていた。

 一方で佐世保実のエース・木下 愛(3年)もテンポの良い投球で抑えこんでいく。捕手からボールを受け取ってから5秒以内に投球動作に入るぐらい早い。常時130キロ~135キロ前後の直球、スライダー、チェンジアップを投げ込んでいく。比べて球速は速くなり、変化球のキレ、制球力も向上し、地に足がついた投球ができるようになっている。技巧派左腕として着実にレベルアップができていた。


 0対0で迎えたこの試合。試合が動いたのは5回裏であった。樟南は8番大谷 真平(2年)がセンターの頭を超える二塁打を放ち、9番島田 貴仁(3年)の一犠打で一死三塁として1番池田 大志(3年)が絶妙なスクイズ! 投前に決め、大谷が生還し、1点を先制する。今年の樟南は犠打のチームだ。樟南は6試合で33。この試合の犠打はなんと7つである。バントといえば樟南!と強烈な印象を与えた。

 僅かの1点のリードだが、山下は要所で締める粘り強い投球に緒方のリードが冴え渡っていた。彼らの配球はなかなか見応えがあった。

 

 相手が内角に意識がいっているのならば、外角へ簡単にストライクを取り、外角に意識をしているのならば、内角へズバッとついて投げている。そして果敢に振る打者には変化球で牛耳り、ストレートで勝負してもストレートで打ち取れる打者にはあえてストレートで勝負しにいく。打者は狙い球と思い、振りぬく。でも彼らはホームランになるようなコースは投げない。打球は外野の深くへ飛んでも、あえて深く守っていた外野手の正面に入るフライに打ち取るなど、彼らの意図する配球に狙い通りに打ち取る姿を見て思わず唸らされるようなものがあった。

緒方はリードだけではなく、捕手としての技術もハイレベルなキャッチャーだ。投げやすい雰囲気を醸し出す構え、キャッチングといい、ワンバウンド処理といい、すべてにおいて高いレベルに達している選手。捕手らしい細やかな気遣いを感じ、良い捕手である。樟南は甲子園準優勝に導いた田村恵(元広島)を筆頭に伝統的に頭の良い捕手を輩出するが、緒方もその系譜を受け継ぐ捕手ではないだろうか。

 そして9回表、無死から5番山田 周(3年)の中前安打、6番川端 俊星(3年)の左前安打、7番木下に代わって代打・阪本 和也(3年)の一犠打で一死二、三塁として8番佐々原 拓海(3年)の四球で一死満塁のピンチ。だが樟南バッテリーは冷静だった。9番後門 蛍太(3年)を直球で引っ掛けさせ三ゴロ併殺でゲームセット。樟南がスミ1を制し、2回戦進出を果たした。

 130キロ前後の速球を両サイドに投げ分けられ、緩急を使える左腕ならば全国でも通用するということ。そしてランナーを出ても動じない精神力。そして狙い球を絞らない配球が出来れば140キロを投げることはなくても抑えることを証明した。彼らの配球は見ていて面白い。樟南が誇る曲者バッテリー、今後も見逃せない。

 

(文=河嶋 宗一)

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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