試合レポート

前橋育英vs岩国商

2013.08.13

先発した両高橋投手の素晴らしさに迫る

 岩国商前橋育英戦は1点を争う接戦になった。とにかく、先発した岩国商高橋由弥(左左・177/68)、前橋育英高橋光成(2年・右右・188/82)のデキがよく、前橋育英打線は8安打(0四死球)、岩国商打線は5安打(2四球)しか記録できなかった。それでも点が入る気配は前橋育英のほうがあった。

 1回は1番工藤陽平(中堅手・左左・169/66)が三塁打を放ち、いきなりチャンスを迎える。しかし2番楠裕貴(一塁手・右左・181/67)がスクイズを失敗して3人で攻撃を終える。3回は安打で出塁した高橋光を二塁に置いて、工藤が今度はライト前に安打を打つが、サードベースコーチャーがぐるぐる手を回してホーム生還を指示。いくらなんでも、というタイミングで、好返球をあってホームで憤死する。

 点が動いたのは4回裏だ。一死後、4番土谷恵介(遊撃手・右左・174/72)が内野安打で出塁、二死後、二塁盗塁に成功して二進すると、5番小川駿輝(捕手・右右・173/83)が右中間に三塁打を放ち、1点を先制する。この1点を高橋光が守り通すわけだが、5回には三塁打で出塁した8番田村駿人(左翼手・右右・175/73)がスクイズを外されてホームで憤死するなど拙攻が重なって加点できなかった。

 最近の球児はバントが下手になった、という声が聞こえてきそうだが、カットボール、スプリット、ツーシーム、チェンジアップなど打者近くで小さく動く変化球をエース級ならどれか1つを投げる時代である。確実に三塁走者を迎えられる位置にボールを転がすのは相手守備陣の備えの徹底もあり難しくなった。何度も言うようだが、バント・スクイズを金科玉条のように考える監督の思考法を改める時代にきている。それよりも外野フライを打つ理屈を徹底するほうが1点を取るには確実な作戦だと思う。
 さて、先発した両高橋の素晴らしさに迫ろう。


 
 岩国商の高橋由は緩急の使い分けがしっかりできていた。この日のストレートの最速が140キロでわかるように、速球投手というわけではない。最大の武器は120キロ台前半で縦に割れるスライダー。ブレーキ、角度とも“超高校級”と形容してもいいキレがあり、これを左打者なら内角いっぱいに落ち(角度)をゆるめてねじ込む。他にも90キロ台のスローカーブ、120キロ台のフォークボールらしき落ちる球があり、これらをストレートに絡めてうまく「緩急」に仕立て上げた。

 もう1人の前橋育英の高橋はこの日の投球で来年の上位候補に躍り出たと言っていい。ストレートの最速は145キロで、私が見た群馬大会準々決勝には3キロ及ばなかったが、その分スライダー、フォークボールなど変化球のキレが素晴らしく、岩国商打線は大げさでなく手も足も出なかった。

 3回の9番中川雄貴(二塁手・右左・172/64)から6回の8番上寺悠(三塁手・右右・170/65)まで実に9者連続三振。大会記録は昨年、松井裕樹桐光学園)が記録した10連続だからあと1人でタイ記録になるところだった。それほどこの日の高橋光の直曲球のキレは素晴らしく、私はタイ記録どころか新記録達成も夢ではないと思った。中川が記録だけは作られたくないとバントで逃れるのだが、スコアは「前橋育英1―0岩国商」である。バントで記録逃れなどしていい状況ではない。しかし、そういうことをやらせるほど相手を切迫した気持ちに追い込んでいた。このバントを見て、前橋育英の勝利を確信した。

 もう少し高橋光の投球に迫りたい。9連続三振中、ストレートの見逃しが4個あった。岩国商打線は低めのスライダーを意識するあまり、まっすぐに手が出なかったということだろう。

 スライダーとともに猛威を振るったのがフォークボール。落ち方が比較的小さいので「スプリット」と言ったほうが適切だと思う。大きい変化をする球なら、動いた時点でバットを振らないなど対策も立てられるが、変化が小さいので途中までストレートだと錯覚してしまう。この球が9連続三振の中に3個あった。
 似たタイプはダルビッシュ有(レンジャーズ)より藤浪晋太郎(阪神)だろう。スリークォーターの腕の振り、真横に滑るスライダー、落ちの小さいフォークボールの軌道など、どれを取っても藤浪とイメージがダブる。

 ストップウォッチで計測できた部分を紹介しよう。クイックは5本計測して1.10~1.22秒と速い。また、捕手からボールを受け取ってからボールの投げ始めまでの間隔は3秒程度でかなり速い。それでいて投球に要するタイム(始動から投げた球がキャッチャーミットに到達するまでの時間)は2秒前後でゆったりしている。
 それらの緩急で打者が惑わされていることも十分考えられる。そういうことを実際に意図してやっているのが牧田和久(西武)で、けっして机上の理屈ではない。もし意図してピッチング全体の“緩急”を操っているのだとしたら末恐ろしい高校2年生である。

 

(文=小関 順二)

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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