鳴門vs星稜
我慢の「守りあい」を制したのは経験値駆使した鳴門！
初回、星稜は腰が沈まずボールがうわずる鳴門の右腕・板東 湧梧（3年）の立ち上がりを攻め一死満塁のチャンス。ここで5番・丸山 雅史二塁手（3年）はセンター定位置へ到達するフライ。これにより犠飛で先制点と思いきや、鳴門は中堅手・甲本 裕次郎（3年）→遊撃手・河野 祐斗（3年・主将）→三塁手・松本 高徳（3年）と寸分の狂いもなくつないだ中継プレーで同時に二塁から三塁を狙ったランナーを刺殺。これが三塁ランナーの本塁到達より早いと判断され、スコアボードには「0」が入った。
これが今大会初といってよい「守りあい」の号砲となった。
星稜は最速142キロ・常時130キロ台後半の重いストレートに、どのカウントからでも投げ込む120キロ台後半のフォーク、110キロ台のスライダーを駆使する2年生右腕･岩下大輝が好投。守備も打者に応じた大胆なシフト、さらに1回裏無死一塁から暴投を犯した場面では一挙三塁を狙うランナーを鹿屋 陸（3年）がストライク送球で刺すファインプレーで、岩下を盛り立てる。
一方、鳴門も最速135キロのストレートから、得意のカットボール、チェンジアップ、フォーク、そして計測不能の遅さまでスピードを殺したスローカーブを交え、尻上がりに調子を上げる板東に、「野球部訪問」でも紹介した配球に内外野守備が連動する守備体系をオーガナイズ。そんな展開が徐々に動いたのは5回裏からであった。
鳴門は一死から7番・松本の右中間二塁打、板東の中前安打でつかんだ一・三塁で9番・鳴川 宗志左翼手（2年）の投手ゴロが併殺崩れとなり先制。負けじと星稜も6回表一死二塁から丸山が初球を迷わず振りぬき三塁線を破る同点適時二塁打。そして迎えた7回裏、試合は一気にクライマックスを迎える。
一死満塁で2番・甲本 裕次郎が真ん中低めのストレートを走者一掃の三塁打。二死後に4番・伊勢 隼人一塁手（3年）が適時打で続き、最後は松本が大会第13号のグランドスラム。打者11人を送り込んだ7回の猛攻で、鳴門は勝負を決した。
とはいえ、最後は投手陣が力尽きたものの、中盤まで堅守を見せ、9回表には7番・岩下からの3連打などで4点を返した星稜はさすが伝統校。心から拍手を贈るべき内容だった。
それだけに際立つのは、その星稜との「我慢の守りあい」を制した鳴門。乱戦続きだった徳島大会から見事立て直し、2006年夏～2008年春の今治西（愛媛）以来となる「公立高校4季連続出場」の経験値を活かしきった彼らには1980（昭和55）年・第62回大会以来、33年ぶりとなる夏・甲子園1勝の祝福と、星稜の想いを背負った修徳（東東京）との2回戦以降もこういった「粘り強い野球」をぜひ継続してほしい。
(文=寺下 友徳)
