仙台育英vs浦和学院
浦和学院、小島和哉のピッチングを振り返る
投打のバランス、選手1人ひとりの能力の高さでは出場校中ナンバーワンと言ってもいい浦和学院が初戦で散った。
実は意外という感じがしない。負けた相手が実力校の仙台育英であること、さらに負けるなら大会後半ではなく、試合に慣れていない序盤だと思っていたからだ。とは言っても、1回表、エラーで出塁した2番服部将光(左翼手)を一塁に置いて、3番山根佑太(中堅手)がセンター左へタイムリー二塁打を放ったのを見たときは、浦和学院の初戦敗退などたちの悪い冗談だと思った。
ボールに差し込まれる要因になる打席の中の動きが小さく、さらにミートポイントが投手寄りでなく捕手寄りなのでボールを最後まで見られる、つまり投手にタイミングを支配されず、本来なら受身であるはずの打者が主導権を握ることができる――それらのことが山根の打席内の姿を見て理解できた。実際に、真ん中高めの136キロストレートを強引に押し込んでセンターの左後方に先制の二塁打を放った。
山根だけではない。竹村春樹(遊撃手)、木暮騎士(一塁手)、西川元気(捕手)、津田翔希(二塁手)には一撃必殺のオーラがあった。
しかし、1回裏に浦和学院のエース、左腕・小島和哉(2年)のコントロールが定まらない。仙台育英の1番熊谷敬宥(遊撃手)に安打を打たれた後、2番菊名裕貴(二塁手)、3番長谷川寛(左翼手)に連続四球を与え無死満塁のピンチを迎えると、一死後、5番水間俊樹(一塁手)、6番小林遼(捕手)にも死四球を与え2点を献上。さらに2死後、8番加藤尚也に四球を与え3点目、9番の投手・鈴木には2点タイムリー、1番熊谷にも連続安打を喫し、まさかの6失点を喫してしまう。
ここでへこたれてしまえばただのチームだが、選抜大会の覇者・浦和学院には反発力があった。3回に打者12人を送り込む猛攻で8点を奪い、9対6と逆転する。津田、服部、木暮、西川の二塁打、小島、竹村、服部の単打の波状攻撃は春の再現かと目をみはった。
6対10と点差が開いた6回裏には仙台育英が4安打、2失策で4点を奪い同点に。強打とともに堅守にも定評のある山根が2つのエラーをするなど誰が予想しただろう。それも一死二、三塁の場面で放った熊谷の飛球は定位置より深めだった以外は、何の変哲もない打球である。それがポロリとグラブから落ちてしまった。野球の神様から見はなされてしまったとしか言いようがない。
7、8回は両校とも無得点のまま9回を迎え、先攻の浦和学院は三塁に走者を進めるものの無得点、そして仙台育英の攻撃は7番馬場皐輔、8番加藤が倒れてニ死走者なし。誰もが延長戦を覚悟したはずだが、途中出場の9番小野寺俊之介(一塁手)が左前打で出塁、迎えるのはここまで3安打と絶好調の1番熊谷。
場面を8番加藤のところまで巻き戻すと、1死走者なし、1ストライクになったところで、マウンド上の小島がうずくまっている。水を飲み、ストレッチをするなど応急処置に追われたが、脱水症状に陥ったのは誰の目にも明らか。加藤を右飛に仕留めても不安は解消されなかった。小野寺にライナーの左前打を打たれたところで2番手・山口瑠偉にマウンドを譲ったのは賢明の策と言っていい。
山口は熊谷に対して最速144キロの速球で押すが、ストレートとわかっていても差し込まれる小島の136、7キロとは球質が違う。7球中5球がストレートという強気の配球でも、熊谷に圧倒されている雰囲気はない。3ボール2ストライクになった7球目、高めにきた144キロのストレートを思い切り上から叩くと打球はライナーでレフト線へ達し、一塁走者の小野寺は歓喜のホームイン。2時間59分の熱闘に終止符が打たれた。
この試合の勝敗を分けたのは浦和学院先発・小島のデキである。1回に5四死球を与える姿などこれまで見たことがない。一死満塁になったあとの水間から菊名までの配球を振り返ってみよう。
◇水間……ストレート2球→死球
◇小林……ストレート7球、変化球1球→四球
◇阿部涼平……ストレート2球、変化球2球→空振り三振
◇加藤……ストレート5球、変化球1球→四球
◇鈴木……変化球2球→左前打
◇熊谷……ストレート7球、変化球2球→中前打
◇菊名……ストレート3球→二塁ゴロ
34球、ストレートが実に26球。このほとんどが抜けていた。ならば、ストレートが回復するまでストライクが取れる変化球を1つ選択して、それを軸にした配球を考えてもよかったのではないか。ストレートで打者を圧倒し続けてきた小島が、ストレートで墓穴を掘ったというひと夏の悪夢であった。
仙台育英の勝因は2番手・馬場の力投に尽きる。6回3分の1を投げ、被安打5、奪三振8、失点2は見事と言う他ない。最速145キロのストレートに力があり、これにキレ味い鋭い縦変化のスライダー、さらに右打者をベース寄りに引きずり出すような横変化のスライダーを基本形に攻めの姿勢を貫き、火のついた浦和学院打線を消し止めた。2回戦以降の戦いでは先発・鈴木のデキが鍵を握りそうだ。
(文=小関順二)