有田工vs大垣日大
大垣日大の2年生エース高田が好投するも及ばず
序盤は剛腕タイプの古川侑利(有田工)と好投手タイプの高田航生(大垣日大・2年)両右腕による見応えのある投手戦が展開された。古川が大会前からMAX146キロの快速球が評判だったのに対し、高田はまったくの無名。
しかし、その無名の2年生投手が6回2死までノーヒットに抑える好投を見せた。確認できたストレートの最速は131キロ。最終回に148キロを計測した古川とは対照的なピッチングだ。しかし、これを有田工各打者が打てない。
6回終了まで18アウト中、フライアウトが12個。球は速くないが左肩の早い開きがなく、打者はボールの出所が見えづらい。さらにボールを離す位置が高く、このリリースのときボールを押さえ込んでいる(潰している)ので低めにひと伸びある。有田工打線はこのストレートになかなか対応できない。
有田工の古川は高田にくらべると投球フォームにクセがある。体を三塁ベースに正対した状態でバックスイングに入り、ここから直線的な腕の振りで体を割っていくのだが、テークバック時の右ヒジの位置が低く、これを上げるための動きが1つ入ることによってスムーズな体重移動ができづらくなっていた。1回、ストレートが再三抜けたのはそういうフォームのためだ。
しかし3回裏、8番横江大聖に内角いっぱいのストレートを続けて投手フライに打ち取ったあたりから投球フォームがスムーズに行われるようになった。中盤まで145キロどまりだったストレートが最終回には146、147キロとスピードアップし、最後の打者・立野力也を三振に打ち取ったストレートはこの日最速となる148キロを計測した。あたかも、右打者の内角にストレートを投げることによってフォームを改善しているようにも見えた。
3回まで0対0の膠着状態が続き、試合が動いたのは4回。1死三塁の場面で大垣日大の3番内藤がスクイズを決めて1点先取するのだが、それは最近よく目にするセーフティスクイズでなく、投手が投げた瞬間に三塁走者が走る伝統的なスクイズ。リスクを軽減させる戦法ではなく、やる以上リスクは覚悟してやる、という攻めの姿勢に好感が持てた。
5回にはそういう大垣日大の“攻める姿勢”が存分に発揮された。一死二塁で横江が左前打を放ち、これを左翼手がはじく間に二塁走者が生還し、この送球間に横江が二塁に進塁。そして2死後、1番柴田湧志の中前打で横江が生還して3対0と有田工を突き放す。
高田のデキから見てこの3点で大垣日大が勝ったと思ったが、高田が6回に初安打を許し、さらに7回に集中打を浴びて2点を失ったところで限界と見切ったのか、大垣日大ベンチはリリーフに1年生左腕・橋本侑樹を送り、これが勝敗を分けた。橋本は2死二塁のピンチを三振で切り抜けたものの、8回にコントロールが定まらず捕まった。
先頭の1番百武将太朗をストレートの四球で歩かせ、バントと内野ゴロでニ死三塁となったところで古川を敬遠で歩かせるのだが、これほどコントロールが定まらない投手が塁上に走者を溜める作戦は危険すぎた。ニ死一、三塁で打席に立った5番仙波康弥は置きにきた初球の130キロストレートを迷うことなく振り抜くと、打球は中堅手の頭を越える二塁打となって2人の走者を迎え入れ、さらに6番桑原耕生も初球の130キロストレートを狙い打って右前に運び、勝負を決める5点目を奪い取った。
面白かったのは大垣日大が1点を追う8回裏の攻防だ。無死一、三塁の場面で一塁走者の大久保隆志が二盗を企図したとき捕手は二塁に送球し、これを二塁手の百武がカットすると見せかけてボールをスルーさせる。三塁走者の足を止め、なおかつ二盗を阻止する作戦で珍しくないが、二塁カバーに入った遊撃手に二盗を阻止するという覚悟が感じられなかった。走者と交錯したこともあるがワンバウンド送球を後ろに逸らし、これを見た三塁走者が悠々と生還して1点差に迫った。
古川が後続を抑えて事なきを得たわけだが、「ゆるぎない信念で作戦を立て、それを実行する」ことの大切さを、スクイズの場面とこの8回の場面で思い知らされた。
注目した選手は有田工の古川以外では大垣日大の4番・滝野要(2年・三塁手)だ。4回には古川のチェンジアップを前さばきでセンター前へ弾き返し、直後に二盗。6回にも中前打のあと相手捕手・草野善彦の好スローイングをかいくぐって二盗を成功させている。走攻守3拍子揃ったプレースタイルは現代野球に相応しく、来年はさらにスケールを増した姿を甲子園で見せてもらいたい。
(文=小関順二)