前橋育英vs前橋
前橋育英、エース高橋がみせた「息を飲む」ピッチング
前橋育英の2年生エース、高橋光成(右投右打・188/82)が序盤と中盤以降では違う投手に見えた。序盤は大きく外回りするバックスイングに違和感があり、ストレートが144、5キロを計測しても野暮ったく見えて仕方がなかった。斎藤佑樹(日本ハム)の専売特許、軸足を曲げたまま始動してフィニッシュまで1回も伸びることがないというフォームも気になった。これに左肩上がりが加わり、力むと判で押したようにストレートは右打者の内角高め方向に抜け、スライダーは低めに引っ掛かった。
ついでに言うと、ディフェンス面も相当危なっかしい。捕らなければいけないゴロを捕り損なって三塁ゴロにしたり、5回には無死一塁の場面でけん制悪送球をして得点圏にランナーを進めるシーンもあった。
ディフェンス面は最後まで危なっかしかったが、ピッチングは中盤くらいからガラッと変り、これが同じ投手かと目をみはった。バックスイングのときの外回りが内回りになり、内側から回ることでヒジが自然と高いポジションまで上がり、腕をスムーズに振ることができるようになったのだ。その結果、楽に腕を振ってキレのあるストレートを投げられるようになった。
似た選手を探すと、都市対抗で好投したJR東日本の右腕、吉田一将( 社会人野球ドットコム独占インタビュー 第17回 JR東日本 吉田一将投手)が近い。今吉田を知らなくてもドラフト1位指名が確実視されている投手なので、1年後にはマウンド上の姿を見ることができる。それまで待てないという人は関東選抜リーグなど社会人野球の大会が頻繁にあるので足を運んでもらいたい。
吉田と似ているということは、投球フォームがいい、という誉め言葉でもある。試合途中のフォームの良化は当然数字にも現れ、中盤まで145キロが最速だったのが8回には146キロ、148キロとぐんぐん球速を増していった。恐れや驚きを表現するとき「息を飲む」と表現するが、それに近い感覚を今日は味わった。来年のドラフト上位候補に浮上したと言っていいだろう。
対する前橋の2年生エース、西目直生(右投右打・175/66)もよかった。進学校のエースと聞くと、線が細く配球は変化球主体という好投手タイプを想像する。西目もそのカテゴリーに入るが、ストレートに力強さがあり、100キロ台のカーブのキレもいい。
投球フォームは投げに行く直前の体を割った姿が村田兆治(元ロッテ)によく似ている。軽い左肩上がりは愛嬌(あいきょう)で、球速は序盤に最速139キロまで達し、おお!と声が出た。ただ、腕を振って行く後半の動きに入ると“村田似”の力感は消え失せる。その最大の原因はステップ幅の狭さである。下半身がフワフワ軽く、上体の前への乗りもよくない。せめてあと半足ステップが広ければ印象は随分変るのにと、残念に思った。
試合は3回裏に前橋がバント安打に四死球を絡めて2死満塁のチャンスを作り、高橋の暴投で先制点を挙げた。しかし4回表には四球を足がかりに前橋育英が反撃に出、8番田村駿人の三塁打で逆転、さらに9番高橋知也のとき西目直が暴投し、3点目を入れた。
前橋も5回裏にヒットの走者を高橋光の一塁けん制悪送球で三塁に送り、3番石原凱のタイムリー、続く西目直の二塁打で同点にした。
しかし、接戦はここまでだった。7回表に前橋育英が打者9人を送る猛攻で大量4点を奪って勝負を決し、9回表には2点を加えてジ・エンド。個人的には7回表、1死二、三塁の場面で1番工藤陽平を敬遠で歩かせた場面、勝負をするべきだったと思うが、それだけでは埋まらない力の差があったのも確か。前橋が善戦したと言っていい試合だった。
(文=小関順二)