都立青山vs都立中野工
力投する田邊傑(都青山)
都立青山を引っ張る投打の柱
高校球児でいちばん成長する時期は冬場である。まだ新チームがスタートしたばかりの秋では未熟さが見られるが、厳しい冬を乗り越えてからの高校球児の逞しさは驚かされる。体力面の成長によって素材が磨かれて、台頭する選手も多い。この試合は一冬超えて逞しくなった逸材をご紹介する。
その名は田邊傑(2年)。部員わずか12人の都立青山のエースである。177センチ72キロと恵まれた体格。12人ということもあって、シートノックに参加。地肩の強さと動きの良さを見せており、実際の投球が楽しみであった。
1回表、都立青山は相手のエラーと犠牲フライで3点を先制する。田邊がマウンドに登る。1回表の投球を目にした後、わずか12人のチームからこんな良い投手がいるのかと驚きを隠せなかった。今までの経験でも、20人に満たないチームでこれほどの投手は見たことがなかった。
直球のスピードは130キロ前後が出ているのではないだろうか。指先にしっかりと力が伝わった直球は本大会に出場する投手と遜色ない。曲がりの大きいスライダー、カーブのキレ、コントロールも良い印象だった。
彼は投球だけではなく、ベースカバーも速く、フィールディングの動きも卒がない。1.1秒~1.2秒を計測するクイック。投手の基本的なところはしっかりと押さえていて、総合力の高い投手であった。
技術の高さよりも目を惹いたのはハートの強さである。勝気な表情をしていて、顔色一つ変えずに打者の内角にバシバシと投げ込んでくる。都立中野工の打者はバットが出ずに空振り、あるいは止めたバットが内野ゴロになっていた。こうして見ると経験豊富な投手に見えるが、実は秋の公式戦で登板していない。
驚かされたが、都立青山の木島監督によるとまだ登板させる状態ではなかったという。故障をしていたわけではないが、まだ公式戦を投げさせられる状態ではないとのことだ。
今年はエースとして投げてもらうためにこの冬は本人が苦手とする走り込みを徹底的に行わせた。この試合では5回を投げて1安打無四球5奪三振1失点と上々のデビューを飾った。
打でも勝利に貢献した田邊傑(都青山)
打ってもチームを引っ張る存在で、6番に座り、まず初回に3点目の犠牲フライ。その後も2本の長打を放った。フォローが効いた豪快なスイング。今回はたまたまと笑うが、打撃力も高いことが伺えた。投げるだけの男ではないし、公式戦デビューながらあっさりと試合に入る事ができていて、自分のプレーを発揮出来るメンタルの強さを感じた。
プレーだけではなく、彼の人間性にも聞いてみた。
「投手らしい性格をした子ですね。上に対しても強く主張しますし、生意気といえば生意気です。ただ同級生は彼のことを大きく信頼している様子が伝わってきます」
果敢に打者の内角へつく投球スタイルからは鼻っ柱の強さを感じたが、周りを見渡し、余裕も感じられる立ち居振る舞い。我が強い投手はどこかで横柄なプレーをする投手も中にはいるが、彼にはそれを感じないし、12人だからそれをすることが許されない環境だからであろう。自分がチームの中心であることを自覚してプレーしている。
投打で引っ張るプレーは、12人しかいない都立青山にとっては大きな存在と映った。都大会へ勝ち上がったときはぜひ注目してほしい投手だ。
(文=河嶋宗一)