試合レポート

沖縄尚学vs済々黌

2012.11.03

沖縄尚学vs済々黌 | 高校野球ドットコム

前半は両者守備陣が盛り立てる

勝負の時!九州王者はどちらの手に?

九州王者を懸けた決勝。
秋は55年ぶりの決勝進出となった済々黌は、今大会3試合を一人で投げ切り、失点がわずか1のエース・大竹耕太郎(2年)が連投のマウンド。対する沖縄尚学は、準々決勝(熊本工戦)で先発した右の宇良淳(2年)が先発した。

1回表、ここまで全試合先攻の沖縄尚学は、1番諸見里匠(2年)が大竹の初球をセンター前へと運ぶ。諸見里は、初戦(日章学園戦)、準決勝(創成館戦)に続いて先頭打者でプレーボール直後の第1球をヒットにした。沖縄尚学にとってはいつも通りの攻撃パターン。逆に大竹は、準決勝(尚志館戦)で同じように初球を痛打されている。1回表にして早くも最初のポイントを迎えた。

2番知念佑哉(2年)は送ると見せかけて、2球目でヒッティング。走者の諸見里がスタートを切っており、ショートゴロの間に二塁へ進んだ。続く3番名嘉昇司(2年)が初球をセンター前へ運び一、三塁とチャンスを広げた沖縄尚学
済々黌のキャッチャー・安藤太一(2年)は、大竹の元へ駆けより一呼吸を置いた。この間合いが修羅場を幾度も経験してきた大竹のリズムを取り戻させる。

打席は4番柴引佑真(2年)。2ボール2ストライクと大竹が追いこんだ後の5球目、内角の直球に柴引は手が出なかった。見逃し三振で2つ目のアウトを取った大竹は、5番西平大樹(1年)をセカンドゴロに打ち取って、このピンチを凌いだ。
欲しい場面での三振と、最後の内野ゴロ。高校生としては熟練された投球術を持つ大竹だからこそのピッチングである。

1回裏のマウンドに上がる沖縄尚学の宇良。比嘉公也監督は、「いつもは前日に先発を伝えるのですが、今回は今朝伝えました」とエース左腕の比嘉健一朗(2年)と、どちらを頭にするか熟考しての決断だった。
宇良は、1番の中川洸志(2年)をセカンドゴロ、2番川原諒平(2年)と3番大竹をともにサードゴロに打ち取り、三者凡退でベンチに戻った。1回表と裏のアウト6つのうち、5つが内野ゴロ。これが終盤まで続く“投守戦”への暗示となっている。

次にチャンスを作ったのも沖縄尚学。3回、先頭の諸見里が内野安打と悪送球で二塁へと進む。2番の知念が今度は送りバントを決めて一死三塁となった。
だがここでも大竹の冷静沈着なピッチングが冴える。3番名嘉をサードにゴロを打たせ、スタートを切っていた諸見里を本塁で刺した。4番柴引もサードゴロ。直前に内野手がエラーをしても、信じて何度も内野ゴロに打たせてエラーを帳消しにした。

済々黌のチャンスは4回。一死から4番安藤の四球と、5番林竜也(2年)のヒットエンドランが決まって一、三塁とした。
沖縄尚学の宇良が初めて走者を三塁に背負う場面。ここをどう切り抜けるかに注目が集まったが、宇良のスタイルは「打たせて取るピッチング」。ピッチャーゴロとショートゴロに打ち取り、済々黌に本塁を踏ませない。

両者とも、野手に心地よいリズムをもたらしながら、ゲームは速い展開で後半へと進んだ。


沖縄尚学vs済々黌 | 高校野球ドットコム

秋の九州で初めて王者になった沖縄尚学

7回表、沖縄尚学は8番の宇良に打順が回った所で代打・上原康汰(1年)を送る。
「この試合は1点勝負だと思いましたので」と勝負をかける意味での代打起用を明かした比嘉監督。さらに、「宇良と比嘉(健一朗)、どちらも先発完投できる投手ですが、今は宇良が先発で行けるところまで行って、比嘉が後ろの方がベストの形」と準々決勝と同じパターンでの継投を考えていたという。7回の攻撃が無得点に終わり、エースナンバーを背負う左腕がマウンドに向かった。

代わりっぱな、済々黌は先頭の池田竜馬(1年)がピッチャー前へセーフティバントをして、比嘉の悪送球を誘う。送りバントで二塁に進み、得点の形を作った。しかし8番小林太一(1年)の打球がサードゴロ。抜群のスタートを切っていた池田の目の前に飛ぶ形となり、タッチアウト。チャンスは一瞬にして潰えた。

切り抜けた比嘉は、次の8回にも内野ゴロの悪送球絡みで同じようなピンチを背負うが、「一番警戒していたバッター」という4番の安藤を敬遠して、次の5番林を内野ゴロに打ち取りまたもピンチを切り抜けた。

1点勝負になっていた厳しい局面でも、宇良から引き継いだ守備のリズムを信じてのピッチングを見せた比嘉。ゲームはついに両チーム無得点のまま9回を迎える。

4回以降は三塁を踏ませないピッチングで立ち直っていた大竹。裏の攻撃を持つ心理的優位さもあり、9回も先頭打者の3番名嘉から三振を奪った。
ところが次の4番柴引に対し、2ボール1ストライクからの4球目がほんのわずかに外れてボール。大竹にとってこれが初めての3ボール。『ストライクを取れた』という確信があったのか、大竹は一瞬だけ悔しそうな表情を浮かべた。結局5球目も外れて、初の四球。

ここが“勝負の分岐点”となる。

5番西平への初球が体にあたり死球に。すぐにキャッチャーの安藤が大竹に声を掛けるが、6番久保柊人(1年)には1球もストライクを取ることができず歩かせてしまう。
完全にいつものリズムではなくなっていた大竹。打席はここまで無安打の7番平良勇貴(2年)。

投手出身の沖縄尚学・比嘉監督は、「スクイズを考えた」と策を練ったが、済々黌内野陣の極端な前進守備を見て、「悪くても犠牲フライにしてくれれば」とヒッティングの策を選択した。
1球目がストライクとなった後の2球目。大竹の投じた球に、平良のバットが反応。放たれた打球はセンター方向。ほぼ確実に犠牲フライにできる当たりだったが、グングンと伸びて、センターの頭上を越えた。四死球で出塁していた走者が全て生還。打った平良は三塁まで進んだ。「まさかあそこまで飛ぶとは」と比嘉監督が驚く平良の打撃で、欲しかった先取点が3点も入った。

一方、呆然とした表情になった大竹と安藤の済々黌バッテリー。「最悪1点は仕方がないと思っていました」と安藤は相手指揮官の思惑と一致していたことを話したが、「あれで大竹も僕も(気持ちが)切れてしまった」とセンターオーバーの三塁打が大きなダメージを与えた。この後大竹の送球エラーなどがからみこのイニング5失点。9回裏が三者凡退に終わり、勝負は決した。

「夏の沖縄大会、秋の新人戦と県大会であと一つが勝てなかった。(悔しい思いをした)子どもたちの頑張りで勝てた。素直にうれしい」と比嘉監督は秋の九州初制覇を達成したナインを讃えた。

逆に初優勝がならなかった済々黌のキャッチャー・安藤は、「打たれた球は強いて言えば少し高かったかもしれないが、悪い球ではなかったと思います。打ったバッターが凄かった」と勝負の局面での完敗を実感しているようだった。
これまで、経験に裏打ちされた熟練の投球術で幾度もピンチを凌いできた大竹。その彼を持ってしても、たった一つの勝負球をきっかけにガラッとリズムが変わってしまう。

勝負の瞬間(とき)。
ほんの些細な部分が、九州王者を決める勝負の分岐点になった。

(文=松倉雄太

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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