大阪桐蔭vs光星学院
藤浪晋太郎はバランスの取れた甲子園史上最高のピッチャー
春、夏続けて同じチームで決勝を争う史上初の大会になった。終わってみれば順当な顔合わせだが、ここへ至るまでの道のりは対照的である。
2回戦 大阪桐蔭8-2木更津総合 光星学院4-0遊学館
3回戦 大阪桐蔭6-2済々黌 光星学院9-4神村学園
準々決勝 大阪桐蔭8-1天理 光星学院3―0桐光学園
準決勝 大阪桐蔭4-0明徳義塾 光星学院9―3東海大甲府
総得点(大阪桐蔭26―25光星学院)や総失点(大阪桐蔭5-7光星学院)は同じようでも、光星学院は甲子園を沸かせたドクターK、松井裕樹(桐光学園)と死闘を繰り広げた準々決勝の印象が強烈だ。それに対して大阪桐蔭は危なげない戦い方で勝ち上がり、春の花巻東、浦和学院、健大高崎戦のような印象に残る試合が少なかった。
ストップウォッチを操り、客観的なデータをもとに試合を見るクセのある私だが、今夏の光星学院に対しては東北初の優勝や桐光学園戦の死闘が頭をよぎり、客観性よりロマンで見ようとし、密かに応援した。そして、そんな甘い私の感傷を絶ち切るように大阪桐蔭のエース、藤浪晋太郎(右投右打)は完璧なピッチングを見せ、光星学院の野望を打ち砕いた。
甲子園大会史上最高の投手は誰か、という企画になると必ず名前が挙がるのが江川卓(作新学院)、松坂大輔(横浜)、田中将大(駒大苫小牧)などだが、私は今大会の藤浪を見て、彼こそナンバーワンだと思った。
8/20、22、23の3日間で27イニング、378球投げて失点はわずか1。完封した準決勝の明徳義塾戦、決勝の光星学院戦の最後の1球はいずれも152キロだった。無尽蔵と表現していいくらいの圧倒的なスタミナに加えて、ストレートは毎試合152、153キロを計測し、コンスタントに140キロ台中盤から終盤を叩き出す。このレベルの速球投手はこれまで例がない。
速いだけじゃない、コントロールが素晴らしい。右打者の内角低め、あるいは胸元に腕を振って150キロ級のストレートを再三投げ、内角に意識が集中したのを見計らって外角にスライダー、カットボールを投じ、空振りを取る。配球の冴えとともに変化球のキレのよさは大会屈指と言うより、全国でも有数だろう。
準決勝まで相手投手を完璧に打ち崩してきた光星学院の3番田村龍弘(捕手・右投右打)、4番北條史也(遊撃手・右投右打)に与えたヒットは田村が最終回に放った1本だけで、それぞれ三振も2個ずつ奪っている。
どの部分を取っても江川、松坂、田中にヒケを取らず、目標とするダルビッシュ有(東北)の高校時代とくらべても雲泥の差で藤浪のほうが上だ。ダルビッシュがプロ入り後、てっぺんまで上り詰めたあの成長スピードを藤浪がマネできるか、そういうレベルで語っていかないと藤浪の素晴らしさに迫れないと思う。
試合を振り返ると、光星学院の5回の守りが残念だった。無死一塁で5番安井洸貴(左翼手・右投左打)が投手前バント安打、6番笠松悠哉(2年・三塁手・右投右打)が三塁前バント安打で続くが、安井の安打は金沢湧紀のバント処理の甘さ、笠松の安打は大杉諒暢の焦り(一塁に悪送球してバント+エラーが記録される)が原因。大杉は3回にも大西友也の三塁ゴロを二塁に悪送球し、金沢も7回に笠松のバントを安打にしている。投打の充実の前に完璧なディフェンス力を備えることが東北に初優勝をもたらす早道だと思う。
光星学院は、終盤の8回に金沢から左腕の伊藤裕貴に継投したが、1死後四球を与えたところで城間竜兵(右投右打)に代えた。スコアは依然として0対3。9回は2番から始まる好打順なので逆転の好機が訪れるチャンスが十分考えられる。その前に点を入れられないように細心の注意を払った投手交代である。
この素早い対応を見て、3回戦で天理に敗れた浦和学院の継投を思った。2日前に完投しているエースの疲れを考えて2番手投手の山口瑠偉(2年・右投左打)を先発させるのは納得できるが、1対3でリードされた3回に経験不足の1年生投手、小嶋和哉(左投左打)をリリーフさせるのは納得できなかった。
準々決勝進出をかけた一戦ならば、センターを守っているエース・佐藤拓也(右投左打)をマウンドに上げるのが高校野球のセオリーである。しかし、佐藤がマウンドに上がったのは2対6とリードが広がっていた6回である。せめて3回、ヒットをつらねられた1死一、三塁の場面で佐藤をリリーフに送っていたらと悔やまれた。
そういう他校の継投を光星学院ベンチも知っていたのだろう。ミスをしても素早い対応で傷口を広げない、さすがに決勝に進出するチームは違うと思った。
大阪桐蔭は史上7校目となる春、夏連覇、光星学院は史上初となる3季連続準優勝、どちらも立派な戦いぶりで感動した。
(文=小関順二)