明徳義塾vs倉敷商
シンカー魔王・西隆聖を攻略した明徳義塾の前さばき
明徳義塾打線が中盤から終盤にかけて小刻みに得点を挙げ、快勝した。
両チーム先発の福丈幸(明徳義塾・右投右打・175/70)、西隆聖(倉敷商・右投右打・174/62)は体のサイズも投球パターンもよく似た同士で、中盤から終盤にかけてどっちが守っているのか攻撃しているのかわからなくなることがあった。ともにスライダーとシンカーという逆方向の変化球を駆使したピッチングに特徴があり、ストレートのスピードはこの日140キロ超え(142キロ)があった福のほうがわずかに速い、その程度の差である。
スライダーとシンカーを駆使したピッチングと書いたが、福は内角攻めにも意欲的だった。ストレートだけでなくスライダーを使った内角攻めもあり、スタメンに右打者が7人並ぶ倉敷商打線を散発8安打、失点は3回の藤井勝利(三塁手・右投右打)のソロホームラン1本に抑え、完投した。
倉敷商の西もスライダーとシンカーを駆使しながら、内角攻めも同時に行う周到さで、明徳義塾の強打線を4失点(13安打)に抑えた。ただ、スタメンに5人並んだ右打者の配球には一考の余地があると思った。13本打たれたヒットのうち、右打者に打たれたのが10本もあったからだ。
西の勝負球はシンカー。シュート回転しながら落ちるボールで、この球が外角球になる左打者に対して威力を発揮するのは当然のこと。右打者にとってはスライダーが外角球になることが多いので、この球を勝負球にする配球が常識だが、10安打のうちカットボールを含むスライダー系が5安打されている。
半面、右打者から奪った三振6個のうち、シンカーで打ち取ったのが5個もある。シンカーの多投が命取りになることは松阪戦で十分経験しているが、スライダーにいつものキレがなかった以上、実力上位の明徳義塾打線を抑えるには玉砕覚悟で最も自信のあるシンカーを多投するのも一案だったかと思う。
もう1つこの攻防で面白かったのが、明徳義塾打線が見せた“前さばき”である。
今春、今夏、このコラムで打者のミートポイントは「捕手寄りか投手寄りか」という問題提起を再三行った。明徳義塾は従来、ぎりぎり捕手寄りまでボールを呼び込み、金属バットの反発力を生かした“押し込み”で相手投手を圧倒するバッティングに特徴があったが、この日はシンカー対策のためか投手寄りでボールを捉える前さばきが目についた。
前さばきは、早い段階で打ちに行くのであらかじめ球種を予測できる場合に威力を発揮するのは当然だが、予想外の緩急に弱い。西は「ストレートの次は変化球」という想定内の緩急を持ち味とするので前さばきが有効に働いた。
明徳義塾が準決勝で対戦するのは大阪桐蔭。ここには藤浪晋太郎という高校球界を代表する本格派右腕がいる。藤浪の持ち味は最速153キロを快速球と言いたいところだが、このストレートは結構打たれている。カウント球でも勝負球でも威力を発揮してきたのはカットボールを含むスライダー系のボールである。
右打者に対してはスライダー系を勝負球にした配球が行われるはずだが、この球種を前さばきで狙い打ちにするのか、その前に投げてくるストレートを前さばきで狙い打ちにするのかじっくり見ていこうと思う。
藤浪の側から考えれば、「ストレート⇒スライダー系」という緩急は極めて常識的で、明徳義塾打線にとって想定内の配球なので、配球を想定外にする工夫が求められる。110キロ台のカーブがあるので、これを多投すると明徳義塾打線は戸惑うかなと思う。このへんもじっくり見守っていきたい。
(文=小関順二)