倉敷商vs秋田商
4年ぶりの「公立商業対決」、懐かしさと爽快感残す一戦に
「夏将軍」松山商業(愛媛)をはじめとする、高松商業(香川)、徳島商業(徳島)、高知商業(高知)のいわゆる「四国四商」。中国地区は広島商業(広島)、宇部商業(山口)に今大会出場の倉敷商業(岡山)。九州は佐賀商業(佐賀)、宮崎商業(宮崎)、今大会にも出場している浦添商業(沖縄)、私学が多い近畿でも八幡商業(滋賀)。
西日本から東日本に目を転ずると東海地区なら県立岐阜商業(岐阜)、静岡商業(静岡)。北信越では富山商業(富山)、福井商業(福井)。関東でも甲府商業(山梨)、横浜商業(神奈川)、前橋商業(群馬)、銚子商業(千葉)、水戸商業(茨城)に今大会出場の高崎商業(群馬)。東北であれば今大会出場の秋田商業と能代商業の秋田県の両雄・・・。かつて、高校野球の歴史は「公立商業高校」と共にあると言っても過言ではなかった。
昨年センバツでは初めて商業高校の出場が途絶えるなど、現在はやや勢いを失いつつある公立商業高校勢。しかし、今大会では上記の4校が出場を果たし、かつこの試合では第90回大会1回戦・佐賀商業対倉敷商業(結果は佐賀商業0-2倉敷商業)戦以来、4年ぶりとなる「公立商業対決」が実現したのである。
そして試合はお互いががっぷり四つに組み合った、かつきびきびした展開となった。攻守交代のスピーディーさ。ミスがあっても必要以上に悔しがることなく、次へ向かう強い精神力。さらに持ち味を出し合おうとする姿勢と随所に見られる美技。
結果は藤井勝利(3年・主将)の先頭打者本塁打で得た勢いを前半戦の4得点につなげ、自己最速をマークした140キロストレート、シンカー共にキレがあった西隆聖(3年)の好投も光った倉敷商業に凱歌が上がる形になったが、そこには間違いなく「古きよき高校野球」の光景があった。
その空気感をベンチで誰よりも感じていた倉敷商業・森光淳郎監督。インタビュー第一声で「秋田商業さんと素晴らしい野球ができて満足しています」と話した後、この試合に抱いていた想いを一気に綴ったのである。
「今の高校野球では公立高校が勝つことは難しい中、お互いが勝ち上がることができて、しかも商業対決。今日は試合前から身震いしていました。試合でも派手さはありませんが、地味に、堅実にコツコツしたものができたと思います」。
対する秋田商業・太田直監督。
「(商業高校対決について)もちろん意識はありました。僕も小さい頃は伝統高対決を見ていましたし、それが実現できたことが嬉しかった。僕は森光監督より年下なのでおこがましいですけれど、想いは2人とも同じだと思っています」。
よって想いは合致し、好ゲームは生まれたのである。
では最後に、5回裏・ライトへ抜けようとする二ゴロを飛び付いて防いだ倉敷商業・清水繁(3年)のコメントを紹介しよう。
「試合が終わった時の挨拶で、秋田商業の選手たちからは『いいチームだった。商業高校の代表として頑張ってほしい』と言われました。1回戦もそうでしたが、今日は本当にやっていて楽しかったですね」。
そこに爽やかさを感じたのは、カクテル光線に照らされた甲子園のグラウンドに吹く夜風のせいだけではないはずだ。
(文=寺下友徳)