大阪桐蔭vs済々黌
両コーナーの揺さぶり、緩急の攻めにびくともしない森友哉の強打
大阪桐蔭が大量得点を挙げて勝つだろう、という大方の予想を覆して好ゲームになった。
済々黌の先発、大竹耕太郎(2年・左投左打・182/68)の2回戦のピッチングを見れば、これはある程度予想できた。
2回戦で対した鳴門は、春に行われた選抜大会で準々決勝に進出している強豪校。その鳴門をエラー絡みの1失点に抑えて、三者凡退は9イニング中、5回を数えた。得点圏に走者が進んだのはわずか2回にすぎない。
ここ10年くらいのトレンド“開かない左腕”というカテゴリーに大竹はきれいに収まる。前肩(右肩)の開きが遅く、腕の振りが真上なので、バックネット裏から見る大竹の体は非常に細く見える。この細く見える体の陰にボールを持つ左腕が隠れ、なおかつ右側面が向かってくるような圧迫感がある。そして、腕の出どころが非常に見えづらい。これが大竹の最大の武器である。
ストレートは130キロ台中盤が最速で、速さはない。しかし、杉内俊哉(巨人)が140キロそこそこのストレートで空振りを量産するようなメカニズムがそこには存在する。
この大竹から大阪桐蔭は13安打を放ち、三者凡退は8イニング中、わずか2回。得点圏に走者が進んだのは5回を数えた。選抜8強の鳴門とくらべても上位の強打ぶりが、これらの数字からは読み解ける。
初戦の木更津総合戦を粉砕したとき、今大会の最強打線は大阪桐蔭と確信した。
しかし、その後、関東勢の作新学院、浦和学院、東海大甲府打線を見て、考えが変わった。体つき、打球の速さ・飛距離、そういう諸々ではむしろ関東勢のほうが勝っているのではないかと思い始めたのだ。そういう心変わりを叱咤するように大阪桐蔭打線は火を吹き、済々黌の大竹は、炎上する寸前に火を消し止めた。そういう試合だった。
大阪桐蔭でまず注目したのは1番森友哉(2年・捕手・右投左打・170/78)だ。
上背があと10センチあれば、という声が聞かれない。知り合いのスカウトが絶賛するので、キャッチャーは当たり負けしないもっと大きい選手のほうがいいんじゃありませんか、と探りを入れると、体重もあるのでこれで十分と返ってきた。
上背のなさは私も気にならない。1回表、120キロ台のストレートで3球揺さぶられたあと外角低めのスライダーを呼び込んでレフト前に打ち返しているが、これは初戦の木更津総合戦でも目立った逆方向への強打だ。このときの一塁到達が4.35秒。フォローまできちんと取ったクリーンヒットでこのタイムは相当速い。
第3打席はコーナーワークと緩急で揺さぶられたあとの6球目、内角低めの135キロのストレートを完璧なスイングと大きいフォロースルーでライトスタンドへ一直線のホームランを叩き込んでいる。その前の打者、澤田圭佑(投手)もホームランを放っているので二者連続の一発である。これで済々黌ベンチはガクッときた。
第5打席では完全に強打を避ける外角一辺倒の配球に対して、逆方向の打球を意識したスイングで左中間への二塁打。よく「逆方向に引っ張る」という表現をするが、この一打がまさにそれ。打球の強さには思わず息を呑んだ。
もう1人、強打に驚かされたのが4番田端良基(一塁手・右投右打・175/83)だ。初戦の木更津総合戦で本格派の黄本創星から本塁打を放っているので2戦連発である。木更津総合戦の一発は117キロのスライダーを捕手寄りで捉えたもので、打球はイヤイヤをするように高い軌道でレフトスタンドに放り込まれた。
7、8年前、プロ野球で2000本安打以上を記録した元日本ハム監督の大島康徳氏を取材したとき、「一番ホームラン打者らしいのはジャストミートした150メートル級のホームランではなく、強引に押し込んでスタンド最前列に飛び込んだ一発」と話してくれた。木更津総合戦で放った田端のホームランがまさにそういう打球だった。そして、ホームラン打者らしいホームランは、この済々黌戦でも見られた。
4対2で迎えた6回裏、三塁打の水本弦(右翼手・両投左打・177/75)を三塁に置いて打席に立った田端は初球の133キロストレートを、やはり捕手寄りで捉え、強引に押し込んでバックスクリーンへ特大の2ランを放り込んだ。
木更津総合戦の一発よりも完璧で「美しい」とも形容できる文句なしのホームランである。森と違って、守備力、走力で目立ったものがない田端に対してはスカウトの評価も上々、というわけにはいかないが、思い返せば中村剛也(大阪桐蔭→西武)に対する評価も似たようなものだった。私はプロでも十分やれる選手だと思う。
投手陣では藤浪晋太郎に続く澤田が2失点完投して、連戦が続く準々決勝以降の戦い方に余裕が出てきた。これから予想されるのは関東勢との戦いである。強打と強打のぶつかり合いは今大会、最高の盛り上がりを見せるに違いない。
(文=小関順二)