光星学院vs神村学園
悲願の優勝へ 光星学院 波に乗る勝ち方でベスト8に進出
じゃんけんは、負けだった。
「何でか勝てないんですよ。でも、(じゃんけんに)勝つと(試合に)負けるんで、いいです」
そういって光星学院の主将・田村龍弘は苦笑いした。
試合前の先攻後攻を決めるじゃんけん。勝ったのは、神村学園だった。
神村学園は初戦の智弁和歌山戦でもじゃんけんに気合を入れていた。「勝っても先攻、負けても先攻」と高嶋仁監督が言うように、常に先攻を取るのが智弁和歌山の戦い方。いつも通りの戦い方をさせないため、「勝って先攻」と決めていたのだ。
「負けたら怒られる」と言っていた弥栄翼主将はパーを出して気合で勝ち、先攻を選択。2回に2点を先制して主導権を握り、リードを保って逃げ切った。1点届かず敗れた高嶋仁監督は、試合後、こう言っていた。
「やっぱりいつもとリズムが違うんよなぁ」
そして、光星学院戦。
勝った弥栄は後攻を選択する。
昨秋の明治神宮大会で光星学院に延長タイブレークの末、サヨナラ負けをしているためかと思ったが、理由はこうだった。
「神宮は(先攻が有利といわれる)タイブレークを見越して先攻を取ったんですが、春のNHK旗ぐらいから後攻がパターンになっていたんです。秋の九州大会までは先攻がパターンだったのでどちらでもいけるんですが、今日は後攻だと」(谷川暁部長)
だが、それが光星学院に幸いする。初回、先頭の天久翔斗がサイレンの鳴り止まぬうちに先頭打者本塁打。一死一塁からは北條史也が2試合連続となる2ラン本塁打を放っていきなり3点を先制した。
「(仲井宗基)監督からは『後攻を取れ』と言われてたんですけど、自分的には先攻を取りたかったんです。今日の先発は金沢(湧紀)。金沢は立ち上がりが悪いんで、先に点を取りたかった。(神村学園が)後攻を取ってくれて、ラッキーと思いました」(田村)
3点をもらって気楽にマウンドに立てた金沢は、初回の神村学園の攻撃を三者凡退に抑える。2回は一人走者を許したものの、併殺打を打たせ、3人で終わらせた。3回に田村が2ランを放って5点差に広げると、金沢は4回まで1安打1四球のみで12人で片づける好投を見せた。
先攻で、先制パンチ。光星学院はこれで試合の流れを引き寄せた。
もうひとつのポイントは、7回。3対5と2点差に迫られた光星学院の攻撃だ。先頭の大杉諒暢が二塁打を放ち、無死二塁で打席には七番の城間竜兵が入った。
無死二塁――。
ここでの采配には、監督の想いが出る。1点がほしければ、確実に送って一死三塁を作る。そうすれば、犠打や犠飛、内野ゴロ・ゴー、暴投、捕逸、ボークなど無安打でも1点が入る状況になるからだ。2点以上、あわよくばビッグイニングを期待するなら、“ヒッティング”。打たせてさらにチャンス拡大を狙う。
確実に1点か、2点以上か。
仲井監督が選んだのは、後者だった。
「バントは考えんかった。城間はバントが下手やから。右に打つのもうまいしね」
サインを受けた城間の考えはこうだった。
「最初はバントかな、と思いました。でも、監督が強気の采配をしてるので、別にアウトになってもいいやと思い切っていきました。点差もあったので、ただ単に打とうというだけ。同点や1点差なら右(方向を)意識しようと思いますけど」
城間は、カウント2ボールからストレートを引っ張った。やや詰まった打球は、ショートの田中貢大のグラブをはじいてレフト前へ。3点差に広げる貴重なタイムリーになった。
レフトから本塁への送球間に二塁を狙った城間は、捕手の悪送球で三塁へ進塁。さらに暴投で本塁を踏む。無死二塁から、思惑通り2点を取ることに成功した。
また、城間の一打は、もうひとつの意味も持っていた。
春のセンバツ以降、光星学院はタイムリー欠乏症に陥っていた。初戦の遊学館戦も、4得点したものの、1点は相手の失策、2点は北條の2ラン本塁打で、タイムリーは木村拓弥の1本だけ。青森大会初戦の三沢戦では12安打で2点しか奪えず、13残塁を記録している。春の東北大会準決勝の聖光学院戦では、0対1で迎えた9回表に同点の本塁打を放った田村がこんなことを言っていた。
「後ろにつないでも点が入らないと思ったので、一発を狙いました」
神村学園戦も最初の5点は、すべて本塁打。3本の一発はインパクトこそ大きかったが、3回は二死二、三塁、4回は二死満塁、5回は一死一、二塁、6回は二死一、二塁と4イニング連続で好機を逃し、その4イニングだけで9残塁を記録している。ようやく出たのが、城間の一打だった。
これでふっきれた光星打線は、8回にも北條、大杉にタイムリーが出て2点を追加。ようやく本塁打以外での点数が取れるようになった。
先攻からの入り、城間への強攻の指示ともに、結果的にはいい方向へと働いた。「結果オーライやけど、よかった」と笑った仲井監督。
青森大会から消化不良が続きながら、3季連続のベスト8は底力のある証拠だ。
経験豊富なやんちゃ集団が、運も味方につけて、ようやく波に乗ってきた。
(文=田尻賢誉)