宇部鴻城vs佐世保実
宇部鴻城、見事な微調整で「打撃技術点・満点」!
「猛打」の2文字で表現するには足りないほどの宇部鴻城の安打の嵐であった。その数は打ちも打ったり21本。木村隆志(3年)・木下愛(2年)といった佐世保実業自慢の左腕2枚を右打者も左打者も難なく打ち込む様は、まるで左投手打ちのDVDビデオを見ているかのようであった。
が、宇部鴻城打線がこの21本を放つには試合前、試合中の2度に渡る微調整があったからこそだ。まずは試合前、尾崎公彦監督はこんなコメントを残している。
「相手は1回戦(富山工業)同様に左投手なので、肩の開きを修正するのと微調整をしました。具体的には打席の位置取り。佐世保実業の投手を見ると右打者にはインコースに来るので多少離れてクロス気味に、左打者には逆にアウトコースに来るのでホームベースに寄るように指示をしました」。
が、佐世保実業側は宇部鴻城の対策を既に見通していた。先発の木村は「相手の裏を突けるようにしたい」と宣言した通り、左打者には内角中心。逆に右打者には外角中心の攻めをこの試合では披露。1回戦の札幌第一(北北海道)とは真逆の配球で宇部鴻城を翻弄し始めたのである。
そこで宇部鴻城ベンチは即座に次の「微調整」を施した。木村の投球に対応できるように、右打者と左打者の立ち位置を入れ替えたのである。
右打者にはホームベースに寄る位置。左打者は打席から離れてクロス気味に立つ。その効果は1対4で迎えた5回表に明確な形で現れる。この回先頭の右打者・友永知基(2年)が上から外角高めのストレートを叩き込んでレフト線二塁打を放つと、2番から4番まで左打者の左打者も変化球を巻き込むように打って3連打。中でも4番・金丸将(3年)が放った逆転2ランは、腰の回転でスライダーを引っ張り込んで高々とライトスタンドに運ぶという、最近のプロ野球でも見られないような美しい弾道であった。
試合後には「試合に向けての調整がしっかりできました」と胸を張った主将・西野孝太郎(3年)。史上7度目となる「毎回安打・全員安打」の偉業は「(報道陣に振られて)はじめて知りました」尾崎監督だが、たとえそんなご褒美がなかったとしてもこの日、宇部鴻城が見せた打撃パフォーマンスは間違いなく「技術点・満点」である。
(文=寺下友徳)