浦添商vs滝川第二
守備にも徹底したかった隙のないプレー
ややもすると、この時に、勝負は見えていたのかもしれない。
1点の先制を許し、2回裏、一死一塁から浦添商の8番・喜瀬由希がエンドランを成功させた時のことだ。
2塁ベースを蹴って三塁へ向かおうとする一塁走者を見た滝川二の中堅手・澤田昌吾は、三塁へ大遠投を試みた。
「自分たちがそうなので、エンドランが決まると勢いに乗るんですよね。だから、止めてやろうと思って、勝負を懸けました」
しかし、三塁を刺すことはできなかった。さらには、澤田の送球が高めに浮いてしまったことで、打者走者の喜瀬が二塁へ進塁。隙を突かれてしまっていた。このあとスクイズを決められて1失点。澤田の懸けは実らなかった。
3回裏、澤田はまた大ギャンブルに打って出る。
1点を失い、さらに1死・二塁での場面。浦添商の5番・當真寿斗が中前へライナー性の打球を放つと、澤田はこの打球に対し、ダイビングキャッチを試みたのだ。
打球は無情にも、澤田のはるか前でワンバウンドし、ボールは転々とフェンス前まで転がっていった。
打者走者の當間は本塁を駆け抜ける、ランニング本塁打となった。。
勝負を挑んでの結果である。仕方ない部分はある。
だが、滝川二が機動力野球を標榜するチームだけに、あのプレーの選択には疑問が残った。
滝川二は激戦の兵庫を機動力で勝ちぬいてきた。
大会前の評判はそう高くはなかったが、神戸国際大付、報徳学園、加古川北をなぎ倒すことができた背景には、安定した機動力があったからだ。我慢強いピッチングを披露したエース・佐藤が接戦に持ち込んだというのもあるが、こと攻撃に関して言えば、7試合で20盗塁の安定した機動力が彼らの持ち味だった。
「守備と走塁は表裏一体」 という言葉がある。
隙を突く走塁をすることと、隙につけこませない守備を敷くことはつながっているという意味だ。
隙を突くからこそ、隙を作らせない。
機動力、いわば、走力に自信のあるチームほど、得てして、守備に隙がない。
「表裏一体」とはまさにそのことで、機動力重視のチームのレベルの高さ云々は、その部分がいかに一体化されているかで物差しが測れる。
滝川二のケースはどうなるのか。
澤田の一つ目のプレーがいい物差しだった。
澤田は一塁走者の三塁進塁を防ぐために、三塁へ返球した。そのこと自体は悪くないのだが、彼のスローイングが手から離れた時点でカットマンの頭上を越えることが分かってしまうものだった。
通常、外野手のスローイングと言うのは、低くするのが大原則だ。
あの場面での澤田のスローイングは矢のような球ではあったが、低くはなかった。
打者走者の喜瀬が二塁を陥れて当然である。
このプレーに、滝川二のチーム力を見てしまったのだ。
機動力を標榜しながら、実は、表裏一体にはなっていない。
多少のミスが起きてしまうのは野球というスポーツだが、あの場面では軽率にさえ映った。
滝川二・渋谷卓弥監督もミスを認める。
「澤田が走者を刺しに行こうと思った気持ちは分かるんですけど、そこをぐっと我慢して欲しかったですね。そのあとのプレーについてもそうですね」
先述したように3回裏、澤田は無理な打球にダイブを試み、ヒットをランニング本塁打にしている。
彼の「試合の流れを変えたい」という勇気は買うが、機動力が持ち味のチームにしては隙を見せた戦い方ではなかったか。
3回を終わって0-5.
接戦でこそ生きるのが機動力野球だけに、5点のビハインドはきつかった。
遊撃手で2番の森潤司がこう振り返る。
「つなぎの野球をしなくちゃいけないと思っていましたが、点差が開いていたので、つい、ヒットを打たなければというスイングになってしまいました。練習でやることはやってきたのに、最後に自分たちのプレーができなかったのは悔しいです」
彼らの機動力は、その数字が示しているようにさすがのものがあった。
だが、表裏一体と言う部分では大きな課題をもらったのではないだろうか。
試合後、渋谷監督も、澤田本人も、ダイビングキャッチのプレーを敗因に挙げていたが、そもそもの、始まりはそれ以前のプレーにあった。
プレーを選択した本人の責任ではなく、チームとしての機動力について、さらなる進化が問われた試合だったような気がしてならない。
(文=氏原英明)