作新学院vs立正大淞南
動きが見違えた作新学院の3人が上位進出のキーマン
立正大淞南の先発、山下真史(左投左打・169/71)がいい投球をして中盤まで予断を許さない展開になった。山下のストレートは120キロ台がせいぜいで、最初のうちは注目していなかった。そのうち、作新学院各打者の空振りが多いのに気づいて、改めて注目すると投球フォームがいいのに気づいた。
投手のフォームで最も重要なことは、右投手なら左肩、左投手なら右肩を開かないことである。杉内俊哉(巨人)、和田毅(オリオールズ)がまさに右肩を開かないフォームで一時代を築いた。
上背がない左腕、という杉内、和田と共通点を持つ山下は、右肩が開かないフォームからストレートを多投し、3回表には8番山梨浩太、9番筒井茂からストレートを勝負球にて、空振りの三振を奪った。勢いがあるなと感心したが、この連続三振が山下を強気にさせすぎた。
4回表1死後、まず3番篠原優太(右翼手・左投左打・168/77)がストレートをバックスクリーンへ放り込み、続く4番高山良介(捕手・右投右打・178/80)がやはりストレートをレフトスタンドに放り込んだ。
山下のストレートは確かに球の出どころが見えにくいが、130キロ以上の速さがないので多少差し込まれても押し込んでいける。この連続ホームランは作新学院各打者にそういうことを気づかせ、勇気を与えた。
6回表には1死一、二塁で高山が左前タイムリーを放つ。立正大淞南バッテリーは4球続けてストレートを投げ打たれているわけだが、前の打席でストレートをホームランにした高山に対してあまりにも無警戒すぎた。次打者山下勇斗がレフトへ犠牲フライを打ってさらに三塁走者を迎え入れ4点目が入り、この段階でほぼ勝敗の行方は見えた。
7回には打者10人を送り込む猛攻で一挙に7点を加え、8回には打者9人、9回にも打者8人を送り、7、8、9回の終盤3イニングで何と15点取ってしまった。19安打、19得点は今大会最多である。
こういう試合で、最もよかった打者は誰だ、と名指しするのも難しいが、あえて指名すれば作新学院の1番石井一成(遊撃手・右投左打・180/75)と、3番篠原、4番高山の3人だろう。
個人的な話になるが、私は毎年春・夏の甲子園大会中、全校が出場した翌日の日刊スポーツ紙上でドラフト候補を紹介している。今夏は「小関順二氏の初戦総括」というタイトルで文字数約500字、一覧表で45人を紹介したが、作新学院では篠原しか掲載しなかった。実力的には石井、高山は載せなければいけない選手だが、石井は春から続く守備での送球ミスと覇気のなさ、高山は打ちに行くときヘッドが深く入るバッティングフォームに違和感があり、載せなかった。
しかし、この立正大淞南戦はよかった。石井はまず守りが見違えた。ミスを重ねていたスローイングは丁寧で、フィールディングは流麗で躍動感があった。さらに第1打席で遊撃ゴロを放ち、このときの一塁到達タイムが4.08秒だったが、これは久しぶりに見る石井の全力疾走だった。8回表には三盗を成功させ、篠原のタイムリーで生還するという1番打者の役割をまっとうした。
高山はヘッドがセンター方向に入る悪癖が相変わらずある。これは普通のタイミングで打ちにいけばタイミングが遅れるので、どうしても早めにバットを振り出さなければならない。早めの始動は緩急に対する脆さにつながるが、この日は形はそのままでも強振せず、コンパクトにバットを出すことに専心したため、ミートポイントを捕手寄りに置くことが可能になった。
ただし、これは山下のストレートが120キロ台だったためできたこと。もし135キロくらいの持ち主で、山下同様、前肩が開かない投手だったら、今の打ち方では攻略は難しいだろう。
篠原の場合は、高山のようなクセがない。だからドラフト候補として45人の中に入れたわけだが、第2打席のホームランは捕手寄りで捉えたもので、打球はセンターのやや左方向。打ち方のよさが見事に打球方向に表れている。第3打席は1死一、二塁の場面で4球続けられたストレートの4球目、内角高めの125キロを冷静に球種とコースを見極めてから捕手寄りで捉え、強引に押し込んで左前に持って行った最高の打ち方。
初戦の佐久長聖戦では第1、2、3打席、五味直也の135キロ以上のストレートをヒットにしているように、一定の速さに対する対応力もあり、今後の好打・豪打にも期待できそうだ。
(文=小関順二)