試合レポート

明徳義塾vs酒田南

2012.08.16

会田隆一郎の甲子園

3失点しながらも完投したエース・会田隆一郎(3年)には、ほんの少しの悔恨と満足感が入り混じっているようだった。

「負けたのは悔しいんですけど、最後に最高のピッチングができて良かったです」。

140キロ近いストレートとスライダー、フォークでぐいぐいと押していく。
本格派右腕としての彼のピッチングは見事なものだった。

とはいえ、 これまでの会田がその評判ほどのピッチングを見せてきたかというと、必ずしもそうではない。中学時代から捕手の下妻隆寛とともに名をはせていた割には順風満帆ではなかった。

今大会まで甲子園に出て来られなかったこともそうだが、予選がそうだったように、先発しては試合を混乱させ、救援陣のバックアップを仰ぐ会田のピッチングは不安定そのものだった。

この日の立ち上がりも、そんな会田らしいものだった。

つまり、最悪の立ち上がりだった。

先頭打者にいきなり3ボール。2ストライクまではゴキつけたが、結局、四球で歩かせた。さらには、次打者の送りバントで二塁へ悪送球。勝ちきれない投手の典型のようなピッチングをしてしまっていた。何とか二死を取るものの、6番・杉原に一塁線を破る2点適時打を浴びた。この打球は「野手がカバーしきれなかった」と阿彦祐幸監督が言っているよう、一塁手が捕れない球ではなかったが、投球のリズムが悪ければ守備のリズムが狂うのも当然である。守備を攻めるのは無理がある。

2失点で踏みとどまったとはいえ、相変わらずの立ち上がりの悪さは彼のこれまでの評価を覆すものにはならなかった。


ところが2回のピンチを乗り切ると見違える。
3回から走者を出しながらも粘り強いピッチングを見せるのだ。
特に、圧巻だったのは明徳義塾の主砲・西岡に対峙した時で、1打席目のものも含めて、5打数無安打4三振に抑えたのである。

下妻も意気揚々と話したものである。
「二人で捕った4三振。会田が良く投げてくれた。追い込んでからのスライダー、フォークが上手く決まった」
2回から7回まで0行進。立ち上がりの会田とは別人の姿がそこにはあった。

序盤は明徳義塾にあった試合の流れは、いつしか五分になっていた。さらに、会田は7回裏の第3打席では左翼スタンドにソロ本塁打を叩きこんだ。
「変化球が甘めにきたので、振りぬいた」。
会田の独壇場になりつつあった。

1点差。
同点、あるいは逆転を期待する試合展開になっていた。

 しかし、野球はそれほど甘くない。

8回表、先頭の岸にセンターオーバーの二塁打を浴びると、1死三塁とされたあと、7番・宋に左翼前に運ばれて1失点。さほど悪い球ではなかったが、外の変化球に食らいつく技ありの一打を見せられ、また、突き放されてしまったのだ。

8回裏に1点を返すも、万事休す。
会田の夏は終わった。


改めて、人生とは不思議なものである。
阿彦監督曰く、この日の会田は「今までで一番のピッチングだった」そうだ。
これまで制球難にあえぎ、評判ほどのピッチングを安定して出せなかった会田が、甲子園という大舞台で力を発揮した。しかし、敗れたのだ。

“好投手は1球に笑い、1球に泣く”、とよく言われる。
この1球を制するかどうかの瀬戸際に立つのが、好投手の宿命なのだ。

「甘くいったらやられるというのがわかりました。8回表のセンターオーバーは甘かったです」

そういって会田は1球を悔いた。

少しの悔恨と最高のピッチングを見せたという満足感。
試合後の会田には二つの感情が入り交っていた。

果たして、彼はこの試合を経て、何を学び得て行くのだろうか。
会田のこの先が、ちょっと気になった。

(文=氏原英明)

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

関連記事

応援メッセージを投稿

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

RANKING

人気記事

2024.04.26

【春季四国大会逸材紹介・高知編】2人の高校日本代表候補に注目!明徳義塾の山畑は名将・馬淵監督が認めたパンチ力が魅力!高知のエース右腕・平は地元愛媛で プロ入りへアピールなるか!

2024.04.26

今週末に慶應vs.横浜など好カード目白押し!春季神奈川大会準々決勝 「絶対見逃せない注目選手たち」!

2024.04.26

【奈良】智辯学園が13点コールド!奈良北は接戦制して3回戦進出!<春季大会>

2024.04.26

古豪・仙台商が41年ぶりの聖地目指す! 「仙台育英撃破」を見て入部した”黄金世代”が最上級生に【野球部訪問】

2024.04.26

【春季奈良県大会】期待の1年生も登板!智辯学園が5回コールド勝ち!

2024.04.23

【大学野球部24年度新入生一覧】甲子園のスター、ドラフト候補、プロを選ばなかった高校日本代表はどの大学に入った?

2024.04.23

【全国各地区春季大会組み合わせ一覧】新戦力が台頭するチームはどこだ!? 新基準バットの及ぼす影響は?

2024.04.24

春の埼玉大会は「逸材のショーケース」!ドラフト上位候補に挙がる大型遊撃手を擁する花咲徳栄、タレント揃いの浦和学院など県大会に出場する逸材たち!【春季埼玉大会注目選手リスト】

2024.04.22

【和歌山】智辯和歌山、田辺、和歌山東がベスト8入り<春季大会>

2024.04.23

【春季埼玉県大会】地区大会屈指の好カードは川口市立が浦和実を8回逆転で下し県大会へ!

2024.04.23

【大学野球部24年度新入生一覧】甲子園のスター、ドラフト候補、プロを選ばなかった高校日本代表はどの大学に入った?

2024.04.23

【全国各地区春季大会組み合わせ一覧】新戦力が台頭するチームはどこだ!? 新基準バットの及ぼす影響は?

2024.04.05

早稲田大にU-18日本代表3名が加入! 仙台育英、日大三、山梨学院、早大学院の主力や元プロの子息も!

2024.04.02

【東京】日大三、堀越がコールド発進、駒大高はサヨナラ勝ち<春季都大会>

2024.04.12

東大野球部の新入生に甲子園ベスト4左腕! 早実出身内野手は司法試験予備試験合格の秀才!