神村学園vs智辯和歌山
智弁和歌山各打者を戸惑わせた柿澤から平藪への継投
8年連続20回出場の智弁和歌山に対して、九州王者の神村学園の対決は1、2回戦通じての白眉と言っていい。
智弁和歌山は吉川雄大(2年・左投左打・181/79)、土井健太郎(右投右打・177/66)、蔭地野正起(右投左打・186/73)、神村学園は柿澤貴裕(右投左打・178/80)、平藪樹一郎(左投右打・170/68)と複数の先発要員を擁し、打線は地方大会の平均打率・368の神村学園に対し、智弁和歌山は.263と分が悪い。そういう表面上の数字がどのように結果に反映されるのか、試合前から興味があった。
試合が動いたのは2回裏だ。神村学園は6番永尾稜の二塁打で2死二塁のチャンスを迎えるが、8番中野大介が三塁へゴロを打ち、万事休したと誰もが思った。しかし、智弁和歌山の三塁手、2年生の大倉卓也は一塁に投げず、三塁に向かってくる永尾にタッチしようとした。ネット裏から見る限りではタッチしたように見えたが、ノータツチのジャッジで走者が一、三塁に残った。そして、9番二河拓馬がレフト方向へ二塁打を放ち、先制の2点が神村学園のほうに入った。
二塁走者が三塁方向に走ってきても、2死のときの三塁ゴロ、遊撃ゴロは一塁送球が基本。といっても、ダルビッシュ有が登板した8/13のゲームでも、三塁手が走ってくる二塁走者に抱きつくようにタッチして、一緒に引き揚げるユーモラスなシーンがあった。大倉を責める気分にはどうしてもならない。
4回表にも神村学園は死球に3安打を連ねて1点加点しているが、右翼手・天野康大の好返球などで最小失点に抑えたのはさすが智弁和歌山である。その裏には四球と二塁エラーで得たチャンスを天野の二塁打で2点返し、試合は俄然面白くなった。ちなみにこの天野、和歌山大会は打率.174と絶不調で、打順を本来の4番からこの日は7番に落としている。それが好守備と打撃で貢献しているのだから、地方大会の成績は鵜呑みにできない。甲子園という大舞台が選手を変えていくのだと痛感させられた。
投手では智弁和歌山の2年生、吉川がよかった。岡田俊哉(中日)、青木勇人(法大)に続く好投手タイプの系譜に連なる選手で、両先輩のよさをしっかり受け継いでいた。ストレートは最速140キロ程度で、速さを売りにする選手ではない。打者手元で小さく落ちるスライダー、100キロ台の縦割れカーブを交えた緩急に持ち味があり、さらに左打者の膝元に140キロをねじ込めるコントロールが秀逸だった。
課題はステップ幅の狭さ。見た目、明らかに半足から1足狭い。そのため下半身がガーッと伸びていく迫力がなく、上体に頼ったピッチングになっている。これがクリアできれば岡田クラスになれると思っているが、それは今後の吉川次第。まずは、自分はステップ幅が狭い、と自覚してほしい。
勝った神村学園では、先発の柿澤に春の躍動感がなかった。試合後、スカウトの人と話していたら、体調が万全でないとのこと。ストレートは本来の150キロに迫る迫力がなく、最速は144キロにとどまった。
テークバック時の体の割れが中途半端で、そのためせっかちに前のめりで投げているように見えた。体調云々を知らずに見ていたときは、太め残りが原因で体がキレないのかなと思っていた。そうでなくて正直ホッとした。
もっとも、そういう体調でも強打の智弁和歌山相手に5回投げ、3安打、2失点に抑えているところが評価できる。123、4キロのスライダーとシンカーという逆方向の変化球を駆使して、左右打者に対したのが好投の原因。また、適度に荒れたことで智弁和歌山各打者が的を絞り切れなかったことも十分考えられる。
この柿澤から技巧を駆使する平藪に代わったことで、絶妙のチェンジアップ効果が生まれた。そして、平藪のピッチング自体が、緩急を駆使するチェンジオブペースが生命線。90キロ台のスローカーブ、110キロ程度のカーブのあとに135キロ程度のストレートを投げ込んでくる憎い配球。打者には135キロが145キロに見えたことだろう。
今春は平藪⇒柿澤の順番で投げていたが、この日のピッチングを見る限りは柿澤⇒平藪のほうがいいと思った。
野手では1安打にとどまった神村学園3番の古賀伊織(右翼手・右投左打・177/75)が一番よく見えた。打球の強さに加えて、第3打席で放った二塁打のときの二塁到達が俊足と認めていい8.11秒。打つ形もよく、3回戦以降も期待できる選手である。
(文=小関順二)