光星学院vs遊学館
緩急対応型のバッティングスタイルが生んだ9回の2ランホームラン
昨夏、今春と代替わりしながら甲子園大会で準優勝した光星学院が順調に1回戦を突破した。私はもう少し接戦になると思ったが、4対0というスコア以上の力の開きを感じ、光星学院の強さを再認識した。
光星学院の生命線が3番田村龍弘(捕手・右投右打・173/77)、4番北條史也(遊撃手・右投右打・177/75)を中心にした攻撃力にあることは誰でも知っているが、春までは形の悪さという問題があった。たとえば1番の天久翔斗(右翼手・右投左打・168/66)は、打ちに行きながら体が外に逃げる悪癖があった。また、北條は始動の足上げと打ちに行くときのステップが性急すぎ、緩急に対応できないという悪癖があった。しかしこの遊学館戦、多くの選手の悪癖は改まっていた。
天久、田村、北條がどういうバッティングをしたかというと、立正大淞南に破れた盛岡大付と同じバッティングをしていた。一言で言えば、ゆったりとした動きでタイミングを取り、軸足にたっぷりと体重をかけ、捕手寄りでボールを捉えようとしていた。(参考:第94回全国高校野球選手権大会 1回戦 立正大淞南vs盛岡大付)
盛岡大付がそういうバッティングに取り組んだのは大谷翔平(花巻東)というモンスターを倒さない限り甲子園にたどり着けないためで、それは150キロ以上の快速球に対応するためのノウハウでもあった。
盛岡大付は逆方向を意識したバッティングをしたら大谷に気持ちで負けると考えたのか、徹底した引っ張り打法がチームカラーになり、その持ち味のまま立正大淞南戦に臨み、技巧派左腕の変化球を引っ掛けまくった。しかし、光星学院はセンター方向を意識したバッティングで遊学館戦に臨み、3人の投手を攻略した。6回の木村拓弥の2点目のタイムリーが中前打、9回の北條の2ランホームランがバックスクリーンに放り込む2ランホームランという打球方向は非常に暗示的だ。
さて、この試合で魅了されたのが北條の攻守である。バッティングでは、春の北條はストレートか変化球か二者択一の読みで投手に対応していた。しかし、この日は読みが外れても対応できる柔軟性を備えていた。5打席の内容を振り返ると第1打席が中前打、それ以降、中飛、三塁ゴロ、中飛、中越えホームランと第3打席の三塁ゴロ以外はすべてセンター方向に打球が飛んでいる。
極端な読み・引っ張り打法でボールを引っ掛ける姿が目立った選抜に比べ大きな進歩で、この日のバッティングを見てドラフト上位指名を確信した。(参考:第84回選抜高校野球大会)
ショートとして守備面にも触れると、前評判の高い対戦相手のショート・谷口一平(右投左打・173/73)が捕球、送球とも堅実性を追い求める受け身スタイルだったのに比べ、北條の守備は攻撃的だった。
1回は谷口の放った三遊間への深いゴロを捕ったあと素早いスローイングでアウトにし、3回は平井健太のゆるいゴロを手慣れたランニングスローでアウトにし、9回無死一塁の場面では黒萩幸生の二塁ゴロで4-6-3の併殺を完成。このとき二塁手から送球を受け取ったあとの一塁送球が超攻撃的で、二進を狙う一塁走者・小林恵大を蹴散らすような激しさで息を呑んだ。
遊学館側から見ると、先制を許した2回、守りのミスが重なった。これだけ重なれば先制を許すのは当たり前だし、これだけ重なった割に1点で済んだのは光星学院の攻めのミスでもあった。
得点シーンを振り返ると、1死から7番城間竜兵が遊撃手の送球エラーで二塁まで進み、続く8番木村の二塁エラーでまず先制。なおも1死一塁で9番岸川賢汰がバントをするがこれが投手への小飛球になり一塁走者が飛び出すが、投手の黒萩幸生が一塁に高投して併殺ならず。
2死一塁から木村が二盗したあと1番天久が左前打して一、三塁、さらに天久が二盗して二、三塁。2番村瀬大樹が三塁ゴロで加点ならずという流れだった。いかに守りのミスが重なったかおわかりいただけただろう。そして、攻撃の手ぬるさもあった。
しかし、試合が終わったあとに残った印象は「光星学院は強いなあ」だった。打つべき人が打ち、守っては二枚看板の内、背番号「4」の城間が球数121で4安打完封。言うことなしの展開で3回戦に駒を進めた。
(文=小関順二)