佐世保実vs札幌第一
待て!
清水央彦監督が佐世保実に20年ぶりの勝利をもたらしたのは「ウエイティング」。
「甲子園という大舞台で“ウエイティング”というサインは、せこいかなと思ったんですけどね(笑)」
とお立ち台で笑った清水監督。しかし、2ストライクと打者不利のカウントに追い込まれたり、フルカウントとなってからの「待て」は勇気がいるものであり、それには絶対の根拠がなければならない。
札幌第一の先発右腕・知久将人は、140キロの直球とキレまくりのスライダーでカウントを作り、追い込んでからはそのスライダーで仕留めに来る。空振り必至の魔球に対して、いかに対処するか。知久攻略のポイントは、この一点に絞られていた。
つまり、いかにスライダーを見極めるか。「仕留めに来るのはスライダー」。この試合で清水監督が指示したウエイティングに関しては、この配球を読みきっていたという点が最大の根拠でもあった。
「バントの構えをされたり、じっくり見てきているなという印象はありました。そういう場面でこそ、ストライクが先行できれば良かったのですが……」
というのは、知久をリードした捕手の村田皓太だ。知久が降板した7回途中まで、佐世保実は打者33人で9つの四球をもぎ取り、3ボールまで投げさせたケースが15度もあった。結果的に6回1/3で151球を投げさせ、ついには知久から制球力を奪うに至ったのだ。
佐世保実の左翼手・酒井堅也は「配球を呼んでのウエイティングで、その読みが外れることはありません」と断言する。
2009年、監督に就任したばかりの清水監督がいきなり秋の九州大会進出を果たした時、勝てばセンバツ確定という準々決勝の嘉手納戦で、やはりこのウエイティング戦法を用いた。その試合では敗れたが、大会で優勝した嘉手納の好投手・池原有を追い込み、土壇場の9回に5点差から1点差に詰め寄ったことがある。
勝負どころでの仕掛けは大事だが、勇気を持って待つことも重要な戦略のひとつ。
繰り返して言うが、そこには絶対の根拠がなくてはならない。
(文=加来 慶祐)