宇部鴻城vs富山工
富山工から感じる攻守でバランスが取れたチームを作る難しさ
チームカラーが異なる同士の対決となった。エース笹永 弥則を中心に守りの野球で勝ち上がってきた宇部鴻城と打率.456、62得点と猛打で勝ち上がった富山工の対戦だ。試合は富山工は自分の持ち味である「打力」を発揮する展開に。
初回から1番岡本拓真(3年)が左前安打、一死二塁となって3番森竹が良い当たりのレフトフライ。早くも鋭いスイングを披露。得点は0だったが、予選で見せた強打は本物と伺わせた。そして2回表、5番向島が右前安打を放ち、6番兵庫 凜(3年)が3-2からヒットエンドランを敢行。右前安打で無死1,3塁。2-2から7番山本 大志(2年)が空振り三振。一塁走者はスタートを遅らせてわざと挟まれる。その間に三塁走者はスタート。バックホームするが、送球が高めにそれてセーフ。
そして3回表、1番岡本が2打席連続左前安打。2番跡治 陽大(3年)の三ゴロで一死二塁となって、3番森竹 祐哉(3年)が内角変化球を逃さずに右前安打。一死一、三塁となって4番荒城栄治が初球の外角高めの速球を逃さず外野席中段へ持っていく大ホームラン。今大会10号目。今まで飛び出したホームランの中で、文句なしのホームランであった。荒城は富山大会で打率.684、2本塁打と大当たりを見せた。
外回りのスイング軌道で、強引にボールを叩いて遠くへ飛ばす。荒削りだが、187センチ88キロという恵まれた体格・長いリーチを活かしたパワフルな打撃は素晴らしい。荒城だけではなく、多くの選手が思い切りのよい打撃スタイル、ヘッドスピードの速い豪快な打撃で、3回まで7安打を放っていた。
ただ豪快な打撃をするチームは守備が荒削りな傾向がある。富山工は守備の乱れが出てしまう。3回裏、一死一、二塁から樋ノ口吉央の右前適時打で1点を返すと、バックホームの返球を受け取った捕手が二塁へ送球したが暴投となってしまい、一塁走者も生還し、4対2に。4番金丸将が中前適時打で1点差に迫る。
5回裏、無死一塁から3番樋ノ口が右前安打。ヒットエンドランに成功し、無死1,3塁のチャンスを作る。樋ノ口が盗塁して、無死2,3塁。4番金丸将の右前適時打で同点に追いつく。勝ち越しのチャンスだったが、スクイズ失敗で勝ち越しを逃す。
その後は宇部鴻城・笹永がコーナーワークを活かした投球を取り戻し、富山工打線から点を許さない。4番荒城の第4打席はインコースを意識させ、最後はアウトコースストレートで空振りを奪う三振。笹永の投球術に嵌ってしまった。
富山工・亀沢雅も粘り強い投球でランナーを出しても得点を許さない。9回まで4対4の接戦となる。
そして9回裏。一死からここまで2安打の樋ノ口が左中間を破る長打。樋ノ口は二塁まで走るが、飛び出しすぎてしまい慌てて戻る。中継は二塁ベースに入っていた荒城に送球した。しかし荒城は勘違いしていた。この場面はタッチプレーをしなければならないが、ボールが自分の中に入った時点でアウトと勘違いしてしまったのだ。4番金丸が二ゴロをセカンドがトンネル。サヨナラエラーで宇部鴻城が全国初勝利。
富山工は失点がエラー絡み。不安の守備が大事な所で出てしまった。富山工は多少のエラーでも打撃で取り返せるだけの得点力はあったが、全国ではそう簡単にはいかない。4番荒城の攻めが特徴的なように宇部鴻城バッテリーは富山工打線の弱点を読んでしっかりと揺さぶっていた。打ち気に焦る富山工打線を打ち取っていったのだ。
そして9回裏はタッチプレーであることを忘れて二塁打を許すミス。トンネルによるサヨナラエラーよりも痛いミスであった。
攻守ともに優れたチーム作りをするのは難しい。守備に重きを置けば、打撃が弱いチームになり、打撃を重きに置けば、守備が弱いチームになる。その釣り合いがとても難しく感じる。全国で勝てるチームというのはその釣り合いがしっかり取れている。全国で勝つ。何を軸にチーム作りをしていくか。それを明確にし、しっかりと強化できるチームは恒常的に強いチームになる。富山工の打撃は全国クラスであることを印象付けた。あとは駆け引きを駆使されても攻略出来る対応力、守備のレベルを高めることが全国で勝つ条件になっていくのではないだろうか。
(文=河嶋宗一)