試合レポート

聖光学院vs日大三

2012.08.11

指標

 次は、スライダーだろう。
 そう思わずにはいられないぐらい、タイミングはあっていなかった。
 8回裏、1点をリードする聖光学院の攻撃。
 一死三塁で、打席には五番の斎藤湧貴。初球のスライダーを空振り、3球目のスライダーも空振りし、カウント1―2と追い込まれていた。1点もやれない日大三は、前進守備を敷いている。ヒットゾーンが広がっているため、三振を取りたい場面だ。当然、バットに当てられない球種で勝負するだろうと思った。
 ところが――。
 日大三バッテリーが選んだのはストレートだった。
 4球目。外角を狙った球が内側に入る。斎藤はその球を見逃さず、センターへライナーで打ち返した。三塁から園部聡がホームインして2点目。結果的に、これが決勝点になった。

 斎藤は明らかにスライダーに合っていなかった。1、3打席目も先発の斉藤風多のスライダーをライトフライとセカンドフライ。投手は大場遼太郎に代わっていたが、130キロ台後半のストレートとスライダーで勝負する斉藤と同じタイプのため、考え方は同じでよかった。
 なぜ、スライダーを投げなかったのか。
 日大三の捕手・湯本祐基はこう説明する。
「スライダーも頭にありましたけど、大場はまっすぐがいいピッチャー。(今日の)まっすぐは走っていたので押しました」

 スライダーに合っていない斎藤。
 ストレートに自信を持つ大場と湯本のバッテリー。
 相手目線で考えるのか。
 自分たちのいつもの考えでいくのか。

 

 どちらを優先させるか、なのだ。湯本は言う。
「スライダーでカウントを取って、まっすぐを厳しいところへ投げるのが大場のピッチングなので」
 大場の投球パターン、いつもの配球はそういうパターンだ。だから、この試合でもスライダーで追い込み、ストレート勝負を選択した。斎藤に打たれた球も、高めに浮いたものの、球速は143キロ。球威はあった。地方大会レベルなら、抑えられていただろう。悪くても、ファウルにできていたはず。だが、相手は6年連続出場で、春の東北大会王者の聖光学院の主軸。全国レベルの打者は、甘くなかった。
「まっすぐでイケイケじゃなくて、スライダーで嫌らしい攻めをすればよかった。スライダーを続ける? (頭には)あったんですけど、自分の考えが甘かったです」(湯本)


 とはいえ、斎藤にも「さすが」と最高の賛辞を贈るわけにはいかない。
 4球目、打席で何の球種が来るのか予想を聞くと、こう返ってきたからだ。
「まっすぐが来るかなと思いました。根拠ですか? ないです(笑)」
 143キロの速球をライナーでセンター前にはじき返すには、スライダーが頭にあったら難しい。明らかに、ストレート待ちだった。だが、あれだけスライダーに合っていなければ、普通はスライダーで攻めてくる。スライダーを頭に入れておかなければいけなかった。打ったのは見事だが、大場―湯本の2年生バッテリーの配球に助けられた感は否めない。

 だが、そこでストレートがきた。その球を打った。それが、聖光学院の成長を表しているといえる。
 連続出場の始まった2007年以降、聖光学院は全国制覇経験校とばかり当たってきた。07年は広陵(●2対8)、08年は横浜(●1対15)、09年はPL学園(●3対6)、10年は広陵(○1対0)、興南(●3対10)。センバツでも08年に沖縄尚学(●0対1)、12年に横浜(●1対7)。勝ったのは二度目の広陵戦だけで、ことごとく跳ね返されてきた。そして、今年も初戦から前年優勝校との対戦。抽選会のとき、斎藤智也監督はこう言っていた。
「ウチにとって避けて通れない相手。『自分たちはやれる』と思っていたのを、勘違いなのか、力不足なのか、センバツで横浜が教えてくれた。横浜に負けて涙を流してから、がんばってきた今までの歩みを証明するチャンスだと思います」
 4回には一死三塁で京田世紀がライトへ犠飛に十分な当たりを放ったが、園部が還れなかった。6回には一死二塁で二塁走者の平野雄馬がショートゴロで三塁に走ってアウトになった。いずれもチーム内の決め事による走塁がうまくいかなかったことによるミスだが、二度も得点圏にいる走者の走塁死があれば負けパターンだ。送りバント失敗も二度あった。

 決してほめられる内容ではないが、それでも勝ったことに意味がある。しかも、優勝経験校に。今までなら、最高のゲームをしなければ、日大三レベルの相手には太刀打ちできなかった。それが、不満が残る内容でも勝てるようになった。広陵に勝った10年は履正社に勝った後、興南に大敗。今回も次戦は浦和学院、3回戦では優勝経験校である天理との対戦が予想される。このブロックを勝ち上がれるかどうか。聖光学院が新たなステージに立てるかどうかの指標になる。

(文=田尻賢誉)

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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