浦和学院vs高崎商
果敢に攻めた浦和学院の粘り強さ
昨年夏から続く関東の勢いを感じさせる好ゲームだった。
とくに浦和学院は、今春選抜の8強入りが自信になっている。従来の浦和学院は試合運びが淡泊だった。
どう淡泊だったかというと、好素質の選手が大した工夫もなく勝手にプレーしている印象があった。点を取れば安心してそれ以降の攻撃が手ぬるくなり、終盤にひっくり返される、そういう野球だった。
しかし、この高崎商戦は攻撃がしつこかった。
まず、6回に四死球をからめてチャンスを作り、犠牲フライと5番笹川晃平(右投右打・181/78)の2ランで3点を先制。また、無得点ではあったが7回には四球とバント安打で一、二塁の得点機を作り、8回には笹川のセンター越え二塁打で加点。9回にも四球の走者をバントで一塁に送ったあと2番林崎龍也(捕手・右投左打・171/69)のタイムリーで加点、そのあと相手投手の暴投で走者を三塁に進め、3番佐藤拓也(投手・右投左打・172/74)の犠牲フライでダメ押しと、容赦がなかった。
しつこい、粘り強い、と思わせたのは、ご覧の通り、四死球や暴投という相手のミスに付け込んで得点するケースが多かったからだ。
また、この日の浦和学院はよく走った。5回に明石飛真、緑川皐太朗の盗塁死が続きチャンスを潰しているのは従来の浦和学院の姿。そして、それを引きずらず二盗でチャンスを広げた6回の攻撃は新生・浦和学院の姿と言っていい。
6回の攻撃を再現すると、死球で歩いた1番竹村春樹(2年・遊撃手・右投左打・172/74)をバントで送り、3番佐藤の四球で一、二塁、ここで竹村が三盗を決め一、三塁とし、4番山根佑太(2年・左翼手・右投右打・178/75)の犠牲フライで竹村が還った。
今春、健大高崎が失敗しても盗塁を企図し続けることで相手バッテリーとディフェンス陣を疲弊させ、その攻撃スタイルが「機動破壊」の異名を取ったが、浦和学院の攻撃スタイルもそれと似ている。
個人技に目を移すと、5番笹川が断然よく見えた。粘っこい始動とステップで緩急の攻めに備え、これに小さいバットの引きが加わり上半身がブレるのを防ぐというバッティング。6回の2ランホームラン、8回の中越え二塁打はそれぞれストレートを上からしっかり捉えたもの。この日までに見た打者の中では最もよく見えた。
この笹川に代表されるように、悪いクセがなく、ゆったりした動きでタイミングを取る好打者が浦和学院には多かった。選抜時、のけ反って打つクセがあった1番竹村は悪癖がきれいに消え、3番佐藤もゆったりした動きで緩急に備え、ボールを手元まで呼び込む形が作れていた。
好素質の選手には手取り足とりの指導はせず、素のまま大きく育てる、というのが従来の浦学スタイルで、それはそれで評価できるが、勝ちながら選手を大きく育てる、というのがPL学園、横浜、大阪桐蔭など王国を築いたチームのやり方。浦和学院はそこに向かって舵を切ったような気がする。
対戦相手の高崎商は躍進する群馬を象徴するようないいチームだった。群馬大会6試合を失点わずか1で乗り切った関純(左投左打・177/70)はストレートこそ120キロ台が多く速さはなかったが、ストレートと同じ軌道できて鋭くボールゾーンに落ちるスライダーのキレがよく、さらに100キロ台の縦割れカーブで緩急を作りと、強打の浦和学院を5回まで無得点に抑えた。
野手では関の女房役、中山皓平(捕手・右投右打・171/68)がリード面だけでなく、2つ盗塁を刺しているように強肩でも関を支えた。さらによかったのが1番内田勝也(中堅手・右投左打・178/63)で、3回には浦学・高田涼太の大飛球を横に背走しながらキャッチ、ピンチを救った。脚力でも目を引く存在で、1回の遊撃安打のときの一塁到達タイムは4.09秒。中軸が機能すればホームベースを踏むシーンが見られたかもしれない。
(文=小関順二)