国士舘vs帝京
苦手意識
野球は相手を意識しすぎてしまって本来の力を発揮出来ずに負けてしまうことが多い。いわゆる「苦手意識」。
高校生にとって苦手意識は大きな要素になっているようで、今まで負けていたチームが勝ち目前となったところで、かなり硬くなる様子が見られる。周りから見ているものからすれば、27個のアウトを取るためにもっと幅の広い攻めをしていけばよいと思うが、当事者の間では苦手意識があるとそこまで視野が回らない。こうして連敗は続いていくのかなと思いながら見ていた。
2年連続の甲子園を目指す帝京にとって国士舘は東東京代表の中では最も苦手にしている相手だろう。現在3連敗。苦手意識はなんとか払拭したい試合である。
帝京は常に塁上を賑わせるが、なかなかつながらない。4回表には国士舘の先発・西川の3四球により一死満塁のチャンスを作ったが、石川がストレートを引っかけ三塁併殺。
帝京は背番号1の渡邉隆太郎。常時135キロ~140キロ(最速143キロ)のストレートに、縦のスライダー、スライダーを軸に危なげないピッチングを展開。西川も130キロ前半のストレート、ツーシーム、スライダー、チェンジアップを投げ分け帝京打線に決定打を打たせず0を重ねていく。
0対0のまま7回を迎える。
7回裏、5番高橋 勇多(3年)は1ボール2ストライクから縦のスライダーで空振り三振。しかし捕手・石川が後ろに逸らし、振り逃げに。川原 大輝(3年)は犠打を仕掛け、渡邉 隆太郎がバント処理。二塁へ送球したが、送球が逸れて野選(フィルダースチョイス)に。ミス2つで無死一、二塁。帝京バッテリーは動揺を隠せずにいた。
7番清水 大智(3年)はセンター前ヒットで、無死満塁のチャンス。8番西川は1ボールストライク2からストレートを振り抜いてライト前ヒット。笠井 駿(2年)は甘く入ったスライダーを逃さずセンター前ヒット。ここで渡邉が降板。準決勝まで先発として活躍し続けた木部拓実が入る。
1番山森 友樹(3年)は1ボール2ストライクからスライダーを泳いでセンターフライ。2番丸山 俊太(3年)は1ボール1ストライクから甘く入ったスライダーを逃さずセンター前ヒット。3番巻島 大宙(3年)は内角直球を逃さずレフト線二塁打で5対0とした。
この回の5失点。1点目は仕方ないとして、それ以降の失点は勿体無かった。国士舘の打線は内角の速球に標準を置いていた。7回までの5安打。すべて直球で、内角を打ったヒット2本。変化球は打ち返す事が出来ていなかった。だが帝京バッテリーは140キロ台の速球でねじ伏せられるという過信があったのではないだろうか。
内角ストレートは有効的に使えれば、驚異的な武器になる。打者が外角にヤマを張っていれば、内角の速球は反応出来ない。咄嗟に判断して打ちに行っても、肘が畳めずに凡打になる。そのために外角を上手く活かさなければならないが、国士舘打線は直球中心の配球をすると読んでいたのだろう。一気に畳みかけて5得点を奪った。
その後、バッテリーは直球が狙われている事に気付いたのか、変化球中心の投球で、完璧に封じた。
そして9回表、阿部 健太郎はライト前ヒット。4番渡邉は四球。無死一、二塁となったところで西川 直人(3年)が降板。二番手に右腕・田宮弘貴(3年)を送る。5番板倉 大周(3年)はストレートの四球。無死満塁のチャンス。ここで石川は初球の内角直球に手を出して捕手フライ。これで勿体無かった。金久保 亮(3年)は押し出し死球。8番木部に変わって代打・石倉 嵩也(3年)。石倉はカーブを引っかけ一ゴロ。三塁走者還り、5対2まで追い上げたが、堤 駿(3年)がセカンドゴロに倒れ、試合終了。
国士舘が6年ぶりの決勝進出を果たし、2005年夏以来の甲子園を目指す。
国士舘は7回の集中打は見事。直球に狙い球を絞り、各打者がしっかりと役割をこなし、試合を決定づける5得点。帝京の戦意を喪失させるには十分な5点だった。優勝候補として期待された帝京。投打ともに戦力充実していたが、またも国士舘から勝ち星を奪う事が出来なかった。相手に対する苦手意識が選手のプレーの幅を狭め、思うような結果を残せない。改めて高校野球はメンタル的な要素が強いスポーツだと実感させられる試合だった。
(文=河嶋宗一)